「大規模無低」を結局温存する福祉行政の大罪 貧困ビジネスの排除は遠のくばかりだ

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「生活の楽しみは何もない。基本は敷きっぱなしの布団の上で過ごしており、(3人で1台共有する)テレビを見るのと食事ぐらいしかすることがなかった。曜日の感覚がなくなるからと、100円ショップでカレンダーを買ってきたけど意味がなかった。何の変化もないんだから」

この施設には80人弱の中高年男性が暮らしていたが、「結局2年半いても話をしたのは隣の男性ぐらい。正月やお盆でも、集まってイベントをするようなことはなかった。食堂は夕食後に談話室となるが、人の姿など見たことがない」。

施設職員は、入居者に対し終始高圧的だったという。3食提供される食堂では、料理の受け取りが遅れると、「何をモサモサやっているんだ、ばかやろう。おまえ1人じゃないんだよ」などと、調理人から叱責された。

集中管理のエアコンの温度調節を職員に依頼すると、ろくに対応してくれず、逆に怒られるのが常だった。入居者間の関係もよくはなかった。「80人にはいろんなやつがいたけど、弱いものいじめが横行して、お互いをいたわるような、かばい合いの精神など微塵も感じられなかったな」。

男性が生活していた大規模無低。天井部分が完全につながった「簡易個室」だった(関係者提供)

男性は年金と生活保護を受給していたが、金銭管理はすべて施設が行い男性が受け取っていたのは月3万円。施設は利用料として月9万円を徴収していた。

事情を知った女性は憤りを隠せない。「明らかに介護が必要な状態なのに介護保険にもつながず、生活の支援もろくにない。そのうえ居住環境も劣悪で、対価に見合ったサービスとはとても言えない」。

全国に広がる大規模無低

この施設の外観は、一見瀟洒(しょうしゃ)なマンションのようだが、生活保護受給者など生活困窮者を対象とした施設、「無料低額宿泊所」(無低)だ。厚生労働省の調査によれば2018年時点で、全国569施設に1万7000人が入所、法的位置づけのない無届け施設も加えると、入居者数は2015年時点で約3万2000人となっている。

厚労省のガイドラインは、居室は原則個室で、居室面積は7.43平方メートル(4畳半)以上と定める。だが、数十人から数百人を収容する「大規模無低」などでは、多人数部屋、またこの施設のような一部屋を石膏ボードなどで区切っただけで天井部分が完全につながっている「簡易個室」が多く残っているのが現状だ(2019年3月1日配信「生活困窮者を囲い込む『大規模無低』のカラクリ」を参照)。

厚労省も事態を問題視。2018年11月に無低の今後のあり方を議論する検討会を立ち上げ、生活困窮者から搾取する貧困ビジネス対策のために、無低の最低基準を従来のガイドラインから厚生労働省令に格上げし定めることを予定していた。

だが、6回の検討会を経て今年6月に出された省令案には、困窮者支援の現場から大きな疑問と懸念の声が上がっている。

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