なぜ子どもはこんなにも「おばけ」が好きなのか せなけいこさんが語る、子どもとおばけ

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小さい頃、宝物にしていた絵本『おもちゃ箱』は、この武井先生の本なのです。お守りのねえやが古本屋で見つけてくれたこの本を、私はいつも父にせがんで読んでもらっていました。武井先生の童画を通じて、小さい頃からおばけになじんでいたのです。

いつの時代も、子どもは「怖い、怖い」と言いながら、怖い物に興味があるんですよ。それはきっと、今も変わらないはずです。

ただ、100パーセント怖かったら、子どもは見てられません。やはり楽しめるところがなくてはね。ですから私は、おばけの勉強もたくさんしました。息子のためということもありましたが、本のアイデアのためでもありました。

小松和彦先生の本は何冊も読みましたよ。民俗学にはおばけがたくさん出てきますから、とても楽しいんですよ。カルチャーセンターで小松先生から直接授業も受けました。3年くらいは通ったかしら。別の先生に外国のおばけについても教えてもらいました。こんな面白い授業を受けていたら、普通の授業なんかとてもやってられない(笑)。

せなけいこさんの書棚(写真:筆者撮影)

日本のおばけと外国のおばけでは、やはり違いがあって、おばけにも民族性が反映されているんです。日本のおばけには日本の風土が、アイルランドのおばけにはアイルランドの風土が入っている。その一方で、人間が根本的に持つ「怖い感覚」があるということも感じました。私が描くのは、日本のおばけが多いですね。やはり自分の国のものですから。

たくさんおばけを知ると、たくさん描きたくなります。「おばけえほん」シリーズには、いろいろな日本のおばけが次々と出てきます。おばけを描きたいために、お話を考えていたようなものだから(笑)。

この頃、息子は小学校の高学年くらいかしらね。新しいおばけの本が出ると喜んでくれましたよ。描かないと「ママ、早く次描いてよ」なんて催促もされました。忙しい中でも、親子で楽しめたのは、おばけがいてくれたからなんです。

おばけは子どもに似た生き物

私が描くおばけは、失敗したり、泣いたり、怒ったり、笑ったり、忙しいんです。ちゃんと本を読んで勉強もしています。ママが怖いし、おばけ同士で「誰がいちばん怖いか」なんて話し合いをしたりもしています。

まあ、子どものおばけはいつも「自分がいちばん偉い」と思っているのですが(笑)。自分の思いどおりにならなくて、がっかりすることもたくさんあります。そんなおばけに似ている誰かが、周りにいるんじゃないかしら?

子どもはきっと、自分に似ているおばけにドキドキしてくれるのかもしれません。私は子どものために本を描いていますから、「これは自分の本だ」と思ってもらえたらうれしいです。

『おばけのばあ』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)
開催中の原画展情報はこちら

私は小さい頃、父やねえやにたくさん本を読んでもらいました。だから今のお父さんやお母さんにも、お子さんと一緒にたくさん本を読んでもらいたい。

「いないいないばあ」は、親子でできますから、一緒に楽しんでもらえたらうれしいわ。『おばけのばあ』を読むときには、ちょっと工夫をしてくださいね。「ばあ」と言うときに、大きな声でゆっくりと読んであげると、それだけで赤ちゃんはドキドキするはずですよ。

初めての「おばけ絵本」は、お父さんやお母さんと一緒がいいんですよ。

(構成:黒坂真由子)

せな けいこ 絵本作家

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Keiko Sena

1931年、東京都生まれ。絵本作家。武井武雄氏に師事。1969年『ねないこ だれだ』を含む「いやだいやだの絵本」シリーズ(福音館書店)でデビュー。1970年にサンケイ児童出版文化賞を受賞。児童出版美術家連盟会員。「あーん あんの絵本」シリーズ(福音館書店)、『めがねうさぎ』(ポプラ社)、「せなけいこ・おばけえほん」シリーズ(童心社)、『おばけのばあ』(KADOKAWA)など、作品多数。2019年にデビュー50周年を迎え、大規模な原画展が横須賀美術館で開催、全国を巡回する。

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