最低賃金「引き上げ反対論」が無知すぎて呆れる

「国際比較のワナ」「インフレ」の論理的な破綻

私の目には、日本は制度を改善させることは得意なようですが、制度そのものを抜本的に見直す改革は苦手なように映ります。

なぜ改革が苦手なのか。その理由は、やはり調査・検証・分析、そして論理的思考に慣れていないからだと思います。

少々長くなりますが、先ほど紹介したほかの筆者による生産性に関する記事の一部を抜粋します。

実のところ、「OECD加盟諸国の労働生産性」は、日本の生産性を考えるうえで無視することができない欠陥を持っています。〔労働生産性 = 国内の生産量(付加価値額)÷ 労働投入量(労働者数×労働時間)〕という数式で計算されているため、日本企業の生産性が海外進出によって飛躍的に向上しているにもかかわらず、国内の生産性が上昇するという結果にはまったく結び付いていないのです。
(中略)
現状の国際比較の方法では、グローバルに事業を展開する企業が海外で高い生産性を達成したとしても、それが国内の生産性には算入されない仕組みになっています。それは裏を返せば、生産性の高い企業が国内での生産を縮小し、海外での生産を積極的に進めれば進めるほど、日本の生産性は私たちが実感している以上に低下していくということを意味しています。
経済統計の背後に潜んでいる問題点を考慮せず、単純に国際比較してしまうという状況を私は「国際比較のワナ」と名付けていますが、労働生産性に関しても国際比較のランキングだけを見ていては、日本企業の正味の生産性が着実に上がっているという事実を読み取ることができません。
今後もグローバルに活躍する企業が増えていく流れの中で、それと反比例するように国内の生産性が低下していく関係にあるということを鑑みると、日本の生産性が国際ランキングで示されているほど悪くはないと理解する必要があるでしょう。(太字は筆者)

2019年6月26日公開「なぜ政府も野党も最低賃金を無理に上げるのか」より

では、検証していきましょう。専門的な問題点の前に、そもそも論理的思考になっていないところを紹介します。太字にした最終パラグラフです。

論理的思考を行うときには、まず仮説を立て、理屈を並べます。その後、その仮説を反証することができるかどうか、隠れている矛盾点や盲点がないかどうかを検証します。

大昔、人間が大草原に暮らしていた時代、猛獣に襲われて食べられてしまわないように、人間には条件反射で動くという本能が組み込まれました。その結果、論理的思考より思い付きのほうが人間の行動に影響を与えやすくなってしまいました。

そのため、同じ人間の頭の中でも、完全に矛盾している考え方をいくつも信じることができる仕組みになっているのです。この矛盾を解消するためには、頭の中に浮かんだ考えを「見える化」する必要があります。論理的思考、検証、分析は、そのためにあるのです。

「国際比較のワナ」には二重の勘違いがある

先ほどの抜粋で展開されている理屈は、一見するともっともらしく見えます。しかし、「国際比較のワナ」という理屈には、大きな論理的欠陥があります。結論に論理の飛躍があるのです。

「グローバルに活躍する企業が増えていく流れの中で、それと反比例するように国内の生産性が低下していく」ため、日本の実態は「国際ランキングに示されているほど悪くない」とあります。ここからは必然的に、「日本企業の海外での活動が、他国と比較して相対的に活発だ」という結論が導かれます。

当たり前ですが、日本だけがグローバルに活動しているわけではありません。ですから、この理屈が成立するためには、日本の海外投資がほかの先進国の投資より大きくなければいけません。しかし、証拠は示されていません。

論理的に思考するのであれば、この結論をデータで検証する必要があります。まずは、これまで海外に投資された金額のデータがあるかどうかを調査するべきです。

次ページデータで検証すると「まったく逆」の結論になる
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