最低賃金「引き上げ反対論」が無知すぎて呆れる 「国際比較のワナ」「インフレ」の論理的な破綻

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勘違い1:データは「まったく逆」の事実を示している

実際に調べてみると、CIAが出したデータがありました。国別、主に法人が海外に投資した累計のデータです。そのデータによると、日本は世界7位です(2017年)。世界のGDPに対する海外直接投資総額の比率は43.0%で、日本は31.8%です。

先ほどの記事で主張されているように、日本の国際ランキングの順位が実態より悪く出ているのなら、生産性が日本より高い国の海外直接投資より日本の海外直接投資のほうが多い必要がありますが、日本はむしろ平均より少ないのです。日本より生産性の高い国々を調べると、大半は日本より海外直接投資比率が高くなっています。

つまり、先ほどの記事で出されている結論は間違っているのです。海外直接投資を含めて生産性を評価すれば、日本の生産性は逆にほかの先進国より低くなります。欧米は日本よりもっと前から海外投資を進めてきたことを見落としています。これは、自信を持って断言することができます。ここにあるのは、国際比較のワナではなく、論理思考の落とし穴です。

問題は、さきほどの記事の結論が間違っているということ以上に、「結論を検証していない」ことにあります。少し考えて調べれば検証できるのに、なぜそれをしないのか。私には不思議でなりません。

勘違い2:「海外での生産性」は、そもそも見るべき指標ではない

問題は、それだけにとどまりません。

労働生産性は海外生産を含めて考えるべきだという指摘は、企業の生産性を国際比較する場合は確かに必要です。しかし、今回の場合、この指摘はそもそも根本的にずれているのです。

私が国内だけの生産性を追求して研究している理由は、国内で生じる社会保障費の負担を捻出するという観点からです。

国内の生産性を高めれば、税収も増えて社会保障負担増に備えることができます。しかし、海外投資の場合、現地の人に支払っている賃金はその企業全体の付加価値には含まれますが、日本国内の所得税や消費の増加にはつながりません。国内の税収に貢献できるのは、その海外オペレーションの利益だけです。

ですので、海外で大変な付加価値を生んで、その企業全体の生産性が高くなったとしても、立派な会社だと評価はされるかもしれませんが、国内の人口減少・高齢化危機とはほぼ無関係なのです。

「最低賃金引き上げはインフレで相殺される」も勘違い

同じ記事では、以下のような記述もあります。

(最低賃金を引き上げた結果)生き残ることができた企業が従来と同じ水準の収益を維持するためには、賃金の引き上げ分を価格に転嫁しなければなりません。賃金の引き上げから少しタイムラグを置いて、物価も上昇することが避けられないのです。(カッコ内及び太字筆者)

2019年6月26日公開「なぜ政府も野党も最低賃金を無理に上げるのか」より

最低賃金を上げても、インフレになって結局実質賃金が上がらないことを懸念しているようですが、ここにもやはり「論理の飛躍」があります。

まず、理屈上、賃金が上がると、企業の対応としては以下の4つが考えられます。

(1)雇用を減らす
(2)利益を減らす
(3)単価を上げる
(4)より高い商品に切り変える

引用した文章の太字箇所を見れば、この記事では4つの選択肢のうち「(3)単価を上げる」しか考えられていないのは明らかでしょう。

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