ラガルドECB総裁誕生から何を読み解くか

慣例を覆し有力で有名な女性政治家に決定

かねて欧州議会はECBの高官ポストに女性が少ないことに反対の意を示していた経緯があり、女性候補が承認されやすいという見立てはあった。

例えば、ECBは金融政策だけではなく銀行監督政策も掌握し、このトップは単一監督メカニズム(SSM)銀行監督委員会委員長として知られるが、2014年11月にSSM初代委員長に就任したのはフランス人で女性のダニエル・ヌイ委員長である(今年1月1日をもってイタリア人のアンドレア・エンリア氏に交代)。つまり、ラガルド総裁誕生となれば、ECB総裁とSSM委員長というECBの2大ポストをフランス女性が経験したということになる。

ECB役員会のメンバーは同じ国籍を重複させないという不文律がある。そのためフランス人であるラガルド氏が総裁となれば、クーレ理事も任期途中退任というのが通例となる。しかし、タイミングの良いことにクーレ理事の任期は2019年12月31日である。2カ月程度であれば重複を認める可能性が高いだろう。

ちなみにドラギ総裁が2011年11月に就任した時はイタリア人のビーニ・スマギ理事が任期前に退任を迫られた。その代わりに入ったのがクーレ理事である。こうして見るとフランスはECB高官ポストについてぬかりなく人材を送り込んでいることがよくわかる。

政治家出身、金融実務の専門家でないという問題

第2に、初の政治家出身のECB総裁という点は、中央銀行の独立性という観点から気になる。明文化されているわけではないが、やはりECB高官ポストに政治家出身の人物が就くことには議論がある。

ちなみに今年6月1日に新たにECB副総裁に就任したデギンドス氏はスペインの経済・産業・競争力大臣であり、これも政治家出身であることが物議を醸した。これで正副総裁が共に政治家出身ということになるという点は今回最も目を引く事実に思える。

既報のとおり、今回の人選にはマクロン仏大統領の意向が大きく作用したと言われている。言うまでもないが、フランスはECBの政策運営について緩和路線を支持している。既に「フランス政府の意向もありラガルドECB体制はハト派色が強いはず」という解説も見られており、それが事実かどうかはさておき、あまり褒められた事態ではないことは確かであろう。ラガルド氏の知名度や危機対応能力や調整能力に議論の余地はないが、その出身と選出過程に疑義が指摘されているという点は認識しておきたい。

なお、今年4月にはドラギECB総裁がトランプ米大統領のFRB(米国連邦準備制度理事会)への政治介入を批判するということがあっただけに、ECBとしては若干の「気まずさ」を覚えるところもあるのではないかと邪推してしまう。過去のECB総裁はすべて各国中銀総裁出身者であったため、このような論点は浮上しなかった。今回の人事を読み解くポイントの1つだろう。

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