ラガルドECB総裁誕生から何を読み解くか

慣例を覆し有力で有名な女性政治家に決定

第3に、第2の論点ともやや被るが、金融政策の専門家ではないという点も指摘されている。周知の通り、元々、ラガルド氏は弁護士であり、その後政治家に転身、財務大臣などの要職を経験した重量級の政治家であり、中央銀行業務の経験はない。

2011年6月という欧州債務危機の真っ最中にフランス財務大臣からIMF専務理事へ就任しているため有事対応の経験という意味では傑出した能力があると思われるが、実務の塊でもある平時の金融政策については周囲のサポートを要する部分も大きいだろう。この点、6月に就任したばかりのチーフエコノミストでもあるレーン理事の寄与が期待されそうであり、そうであるならば過度にハト派な政策発想にはならないという安心感もある。しかし、就任早々から市場の思惑を巧みに操ったドラギ総裁のような派手なコミュニケーションは期待できないかもしれない。

なお、パウエルFRB議長も弁護士であり、黒田日銀総裁も法学部出身で司法試験に合格している。これで日米欧の中銀トップが法律の専門家という構図になる。今の時代は伝来的な経済・金融理論の専門家ではなく、政治との距離感をうまく取り、調整能力を発揮できることのほうが先進国中銀を切り盛りするうえで重要になっているのかもしれない。

派手さは期待できないが調整能力は高い

総裁が代わったからと言ってECBにできることが増えるわけではない。基本的にはマイナス0.40%の政策金利と約4.7兆ユーロにまで膨らんだバランスシートを引きずりながら、ラガルド体制も「次の一手」を練る難しさに四苦八苦するはずである。

フランス政府(≒マクロン大統領)に配慮しようとしまいと、ユーロ圏が輸出主導型の成長スタイルを主としている以上、域内金利を低め誘導してユーロ安を促すというのが基本戦術になるしかない。その過程では量的緩和の再開やマイナス金利の深掘りといった思い切りも必要になるはずだ。この点、そのような方針を口にしたドラギ総裁にトランプ大統領が噛み付いたばかりであるだけに、ラガルド新総裁も同様の事態に直面する可能性は高い。

目下、航空機補助金をめぐって米国がEUに制裁関税を加えるというニュースが話題となっている。こうした政治対立の最中、これまで輸出で稼ぐドイツを利しているECBの政策運営と共通通貨ユーロが米国の神経を逆なでし続ける時間帯は続くだろう。無理筋の要求が目立つトランプ大統領だが、ドイツがユーロにフリーライドしているのは一定の事実であるため、この対立が簡単に収まるメドは立たない。

上述したとおり、ラガルド新総裁の下ではドラギ総裁の「マジック」とも称される派手な運営ではなく堅実でバランスの取れた動きが中心になる可能性が高い。ドラギ総裁は就任初回の会合から利下げと36カ月物長期流動性供給で市場期待をけん引したが、そのような動きは期待し難しいだろう。

だが、それでもユーロ圏経済に必要な成果は「金利低下とユーロ安」であることに変わりはない。売りである「調整能力の高さ」が徐々に発揮されていけば、意思決定が早まっていく。現状のECBのようにいちいち「作業を指示した」などと宣言しない政策運営に変わっていく可能性もあるだろう。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

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