クラウドソーシングで生活する「若者の実情」 シェアハウスに住み、食事は肉じゃがの一択

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なぜなら、執筆依頼の中には「1文字0.1円」など、雇用に置き換えた場合、ほぼ確実に最低賃金水準を下回る報酬しか得られない案件もある。また、こうしたサイトは、フリーランスの美容師やウェブデザイナーなどにも広く業務を仲介しているが、中には、勤務場所や時間が決まっているなど、雇用と変わらない「名ばかり事業主」もある。

事実上の残業代未払いや、長時間労働により、フリーランサーを使い捨てる発注者の事例を、私は少なからず取材で見聞してきた。こうした悪質な発注者からの手数料もまた、サイトの利益になっているのだ。

企業と労働者は対等な力関係にない。立場の弱い労働者を守り、企業の暴走を止めるために、労働基準法や労働契約法は存在する。クラウドソーシングにおいても、発注者と受注者は対等でないから、「1文字0.1円」「名ばかり事業主」などが横行するのだ。ハローワークが一定のルールの下で仕事を紹介しているように、クラウドソーシングにも、働き手が買いたたかれないような環境整備は不可欠だろう。

フリーランスの活用と「最低報酬額の保証」はセットに

トモヒサさんにとって新卒フリーランスは、消極的な選択だったかもしれないが、その判断には説得力もあった。労働関連法に守られない、ケガや病気をしたら収入ゼロになるおそれもある世界に、新卒で飛び込むことを、やっぱり私は勧める気にはなれないが、国の「働き方改革」がフリーランス=個人事業主を増やす方向にあることを考えると、こうした若者は増えていくのかもしれない。

それにしても、フリーランスを活用したいなら、せめて「最低報酬額の保証」はセットだろう。国は気乗りしないようだが、そうしなければ、ワーキングプアは確実に増える。

話を聞いた後、シェアハウスを見せてもらった。もとは賃貸アパートだった物件で、1部屋を2人でシェアしている。ふすまで仕切られた6畳一間が、トモヒサさんのプライベートな空間である。

ミニマリストを自認するだけあり、物がない。本棚も、テレビも、エアコンもない。丁寧に畳んで壁際に置かれた、数着の下着やTシャツ、ジーンズが、持っている衣類のすべてだという。車も持っていないし、パスポートを取ったこともない。節約の優等生ではあるが、個人消費が伸びないわけだ――。

トモヒサさんは「じゃあ、お金、くださいという話です。お金があれば、車も買いますし、海外旅行にも行きますよ」と笑う。そしてこう続ける。

「確かに将来への不安はありますが、今の生活には満足しています。最近、一生独身でもいいかなと思うようにもなったんですよね。『女性が結婚相手に求める年収は500万円』というニュースを読んだので。でも、だからといって絶望したり、社会を批判したりしても意味がない。自分が変わればいいんです」

ためらうことなく社会に物を申し、挑み、求め、失うことを恐れない。かつて、それは確かに20代の特権だった。変わらなければならないのは、その若者に「自分が変わればいい」と思わせる社会のほうなのではないか。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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