「遠くへ行きたい」が圧倒的な支持を集める理由 唯一の「JRグループ」提供番組のこだわり

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番組は来年10月で放送50年を迎えます。ここまで続いてきた理由と、今後の方向性を土橋さんに尋ねてみました。

土橋「番組は時代を映す鏡であり、時代にコミットできる実力がないと続いていかないと思っています。今は視聴者の目が肥えているので、考えていることの半歩先を行くようなメッセージを番組として隠していないとダメなんですよ。2歩先を行っちゃうと視聴者は離れてしまうので、あくまで半歩先くらい。『あまり気づかないくらいのところを掘り下げる』という感覚を大切にしています」

例えば、5月5日に放送された「前川泰之が大人の修学旅行!奈良の知られざる日本一を巡る」では、鹿せんべいの製造店「武田俊男商店」を訪れるシーンがありました。普通の旅番組なら「鹿せんべい作りの現場を見ておしまい」ですが、この番組は鹿せんべいの包み紙がパルプ100%(お腹の中で溶ける)、グリーンの印字は大豆から抽出した汁、のりは小麦粉で作られていることを紹介していたのです。

これは「鹿が紙を食べてしまう」という問題に対応したものであり、「現在の鹿せんべいは、鹿が食べてもすべて消化できるものに進化した」ということ。これこそが土橋さんの語る“時代にコミットできる実力”であり、“半歩先のメッセージ”なのでしょう。

さらに土橋さんは、今後の番組に向けて、力強い言葉を発していました。

土橋「僕がやっている間は、この番組はさらにパワーアップさせていきたいし、新しいことをどんどん取り入れていきたいし、この時代の人々が見て『楽しい』というものを作り続けていきたいですね。今、現場には20代のディレクターもいて、番組制作の技術はまだまだだけど、若い感性を注入してもらっていますし、僕の持っているものは後輩たちにすべて伝えるつもりでやっているので、その中に後継者が出てきてくれたらと思っています」

いまだ番組に根付く“永六輔イズム”

最後に触れておきたいのは、いまだ番組に根付いている“永六輔イズム”について。もともと「遠くへ行きたい」は、永六輔さんが1人で旅に行き、編集し、ナレーション入れるという形の番組でした。

その後、番組は週替わりの旅人が旅に出る形に変わりましたが、前述したドキュメンタリー感の強い演出は、台本どおりの構成を嫌う永さんの意向から続いているものです。そして、もう1つ、永さんの意向として現在も重視されているのは、「取材させていただく」という謙虚な姿勢。

土橋「カメラが小さくなったので、なるべく目立たないように撮影していますし、人混みを撮るときは旅人とカメラマンだけで行かせて離れたところから見守ることもあります。永さんに『テレビは一般の人の暮らしにとって邪魔なものなんだ。映してもらわなくていいという人が大半なんだ。そういうところにわれわれはカメラを持ってお邪魔するという気持ちを忘れてはいけない』と強く言われていたので、今でも『なるべく人様の迷惑にならないように』と思いながら撮影しています」

労力と手間を惜しまず、視聴者の半歩先を行こうとし、謙虚な姿勢を忘れない。この3点が失われないかぎり、「遠くへ行きたい」は日本最長の旅番組として支持され続けるのではないでしょうか。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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