「遠くへ行きたい」が圧倒的な支持を集める理由 唯一の「JRグループ」提供番組のこだわり
よく見る「いきなり料理が出てきて食べて感想を言う」という食リポとは一線を画す演出だったのです。食べるシーンで旅人がいいコメントを言えなかったとしても、「編集のときに自らの声でナレーションを入れる」というフォローの方法を採用することで、無理して言わせることはありません。「ロケで優先すべきは旅情と旅人」という方針が徹底されているのです。
さらに、旅情と旅人を優先させる方針は、「撮り直しを避ける」という演出にもつながっていました。
土橋「結局ファーストテイクが、いちばん力があるんですよ。一度でうまくいかなければ、補足するための策を考えることはありますが、旅人にやり直してもらっても映像の力がないんです。これは旅人だけでなく旅先で出会った人々も同様で、ファーストテイクが最もいい反応をしてくれますね。ときどき『テレビ番組への協力はもうたくさんだ』という人の話を聞く機会がありますが、『細かく指示を出されて、セリフも決められて、何回もやらされた』ということが多いですし、ディレクターたちには『2度、3度撮り直すのはやめよう』と言っています」
読んでいる人の中には、「撮り直しをしないだけなんて、そんなの簡単じゃないか」と思うかもしれませんが、この演出を貫くためには、地道な努力が必要なのです。
拘束時間が長くても「出たい」番組
今回のインタビューで最も驚かされたのは、1本30分の番組制作に1カ月半~2カ月もの長い時間をかけていること。それを毎週放送しているのですから、いかに多くの時間と人員を割いているかがわかるのではないでしょうか。
土橋「放送日から逆算して2カ月前くらいから動き出して、ロケハンは短くて4日、長くて1週間。撮影は2泊3日がマスト。その後の編集は10日間かけて行い、最後に旅人本人がナレーションを入れています」
効率化を求めて分業が進む現在のテレビ業界では、ディレクターとタレントが大半の制作過程に関わる番組は、ほとんどなくなりました。その点「遠くへ行きたい」は、1本30分の早朝番組でありながら、ゴールデンタイムの特番にも劣らない労力と手間をかけることで番組の魅力を高めているのです。
ただ、土橋さんに話を聞いていて頭に浮かんだのは、「1本30分の番組でタレントを2泊3日も押さえられるの?」という疑問。半日程度のロケのみで終わらせる番組も多い中、「遠くへ行きたい」は、事前の打ち合わせや、ロケ後のナレーション作業も含め、タレントから見たら割のいい仕事ではないように見えます。
土橋「もともとロケは2泊3日ではなく、3泊4日だったんですよ。でもタレントを4日押さえるのが大変になって、今では3日でも難しくなりました。ただこちらとしては、長い時間その土地にいることで、旅人の気持ちが旅に入ってくるので、『ぜひ3日お願いします』と譲らないようにしています」
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