一方、最近起きている金利低下が示唆するのは、世界的な景気後退とそれに伴う先進国のデフレリスクの高まりである。ただ、各国中銀の緩和姿勢強化によって足元で進む金利低下が、アメリカなどの国内需要を高める方向に作用するため、今後の景気減速は緩やかなものになると筆者は予想している。
米中貿易戦争による緊張は続くが、予防的かつ積極的な米欧中銀の利下げ転換によって、世界経済の深刻な後退が回避されるというシナリオである。
アメリカの株式市場はFRBなどの金融緩和姿勢を好感し、6月20日にS&P500は最高値を再び更新した。長期金利の大幅低下で相対的な株式の魅力度が高まっていることが、年初からのアメリカ株市場反発のドライバーとなっている。
では同国の株高は続くだろうか。金融緩和や財政政策の下支えで、同国経済の減速が限定的となり、株高は十分正当化できると筆者はみている。さらに、低金利環境が長期化するとの見方がより広がることで、PER(株価収益率)の上昇によって2019年後半に一段の株高となりうるだろう。
日本だけが緊縮的な財政政策に踏み出すという「異常」
一方、日本株はどうだろうか。筆者は「アメリカの株市場は好調でも、それに置いていかれる状況が続く」と、当連載で繰り返し指摘してきたが、この状況はまったく変わっていない。先に述べたとおり、FRBの金融緩和強化によるアメリカの金利低下によって、為替市場ではドル安が進みドル円相場は一時107円を割り込んだ。金利が大きく低下しても、現時点ではドル円相場において小幅なドル安円高にとどまっている。
しかし、FRBは市場の想定を超えるピッチで金融緩和姿勢を強める一方、日本銀行は現行の政策フレームワークに固執し、副作用を理由に挙げて新たな対応を講じるには至っていない。FRBはインフレ期待の低下を大きなリスクとして重視しているが、2%インフレ目標実現がみえていない日本銀行の中で、過去1年以上続くインフレ期待の低下を強く問題視しているのは、一部の審議委員だけである。
当面「金融緩和に踏み出さなくても、日銀の黒田東彦総裁は円高進行などいざという局面になれば金融緩和を強化する」との思惑が大幅な円高を防いでいるのだろう。
だがアメリカではMMT(現代貨幣理論)に関する議論が注目されるなど、世界的な経済成長率の低下のもとで拡張的な財政政策の必要性が高まっている、との見解は経済学の世界では広範囲に認められつつある。
そうした中で、日本では10月に消費税が引き上げられ、先進国の中でほぼ唯一緊縮財政が始まることになる。脱デフレの途上にある中で、安倍政権は他国とは反対に緊縮的な財政政策に踏み出すわけである。さらに財政政策によって国債購入金額が決まる制約から離れ、日本銀行が積極的な緩和政策を講じなければ、「日本は政府・中銀ともに脱デフレ完遂に背を向ける政策を行っている」との評価になることを覚悟すべきだ。
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