「わたし、定時で帰ります」が中国で共感呼ぶ事情 日本の若者と同じく働き方に関して葛藤する

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「わたし、定時で帰ります。」の人気に火をつけたのは、意外にも、アリババ創業者のジャック・マーだった。

今年4月に、マー会長が、996(毎日9時出社21時退社、週6日勤務)制度は若者にとっての「恵み」であり、「若いとき996すべきだ。年を取ると996する機会さえなくなる……。他人以上の努力と時間を費やさずに、あなたは欲しい成功をどうやって手に入れるか?」と主張し、その後中国で世論を大きくにぎわせた。

多くの若者は、「ドラマが言うとおり、これ以上頑張りたくない」「仕事より命を大切にしたい」「プライベートな時間がほしい」とジャック・マーの主張に反対している。なお中国国内の労働法では996のような長時間労働は違法である。

若者たちが「選択の自由」を渇望した

筆者は、このような反対は、若者が今までなかった「自己意識を覚醒」し「選択の自由」を渇望したためではないかと考えている。

中国人社会は、古くから農耕社会であり、固定した土地が代々継承されたこともあり、「土地」→「土地の上にある家(不動産)」→「家に住んでいる家族」を何より大事にしてきた。今の中国における不動産価格高騰の原因の1つは、マイホームを所有する執着が強いことといわれているし、反対に日本では考えられないが、すべての貯金を使い、ないし借金までして自分の人生を犠牲にして子どもに留学させたりする親もいる。

しかし、働くことに対する喧伝は違っていた。中国はこれまで、「自分/家庭を犠牲して仕事で頑張る」人を模範にして大々的に取り上げていた。仕事のため親の死に目に会えなかった、仕事のため病気になっても人生最後の1秒まで頑張った、仕事のため子どもの学校の行事に1回も行かなかった……。

つまり、やや極端な典型的人物像をアピールすることにより、「仕事(=社会)のために自己を犠牲してもよいだろう」という価値観を醸成してきた。経済発展のため、全国民が一丸となって全力を挙げて仕事をしなければならなかったのだろう。今になると、それがもう古いと思われるようになり、健康的かつワークライフバランスを求めるようになりつつある。

中国では昔、大学生が珍しかった時代は、計画経済で国が仕事を決める就職制度(「統包統配」)のため、自ら就職活動をせずに済むし、どちらかというと「国のために働く」意識が強かった。しかし現在、今の20~30代の都市部の若者は、お腹を空かせることはもちろんなく、経済的に豊かな環境の下で生活しているので、自分の気持ちを重視し、仕事で(「社会」のために)何かをして必死に頑張るという気持ちが湧きにくい。

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