「わたし、定時で帰ります」が中国で共感呼ぶ事情 日本の若者と同じく働き方に関して葛藤する

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また、多くの中国人にとって、働く理由は家族のためだ。そのため、家族や彼女・彼氏を犠牲にして仕事をするのは本末転倒だと考えている。

今は社会環境の変化により、以前、主流だった「理想的に働く=自分を犠牲にするまで仕事をする」型のロールモデルが希薄化し、自分の意思を伝えること、行動を行うことが当たり前になってきたので、「家族のために」と思うと、堂々と最優先に行動するのだ。とくに男性は、家事・育児をすることがごく普通である地域が多い。

「わたし、定時で帰ります。」の主人公の恋人の諏訪巧さんが早く家に帰って料理することに、日本人ほど違和感なく、逆にごく普通のことと感じる。もちろん、日本でも意識が変わりつつあるが、実態として男性はなかなか早く退社もできていないとみられる。

現在の日本も、新卒採用+年功序列+終身雇用といった単一な就労形態の維持が難しくなり、兼業容認、通年採用(入社時期を就職者の都合に合わせること)や、転職に寛容になろうとしているし、労働者自身も家族やマイライフを重視しつつある。つまり、上述した中国人の特徴、つまり「個人・家族至上主義」が日本でも浸透しつつあると考えられる。

「努力する人はもっと努力する」

いろいろな人が996に反対するとはいえ、上昇志向の中国人も多くいる。

996、007(IT企業での24時間待機のこと)にこだわるのではなく、もっと出世したい、もっとお金持ちになりたい、もっといい生活を送りたい、経験を積んで独立したいなどをモチベーションにし、休む間を惜しまずに努力する。今では誰でも知っている中国の一流企業で働いている人は、繁忙期に会社近くの友人宅に3週間ぐらい泊まり、4時間睡眠で仕事に行くという生活をした。家にも帰ることができず、夫婦げんかになったという。

一見、日本でよくいう「ブラック企業」に見えるが、中国の場合そうでもない。その理由は、「相応な報酬がもらえる」からだ。残業代はもちろん、自分の努力で実力(ITの場合は技術力)が向上し、それをもってして、もっといい生活を送ることが見込めるのだ。昇進でも転職でも、社内外でも実力主義なので、自分の分野内だったら多く働いた分、将来の夢につながる。したがって、いかに効率よく働けばよいかをよく考える。

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