人手不足を嘆く地方の組織が陥る「4つの矛盾」 変化しない職場や地域に「明るい未来」はない

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しかし、こうした状態でも、変化を生み出し始めている地方の取り組みが多数あります。民間だけではありません。

ご紹介したいのが、熱海での民間の取り組みです。昨年から地元の中小企業が以下のような画期的な募集をしたのです。

すなわち「今ある仕事の人手不足解消策ではなく有効に活用できていない資産を使って新たな事業を作ってほしい」「やりたいけれどもこれまで地元の人材ではできなかった広報などの展開をしたい」、ついては「副業としての応募も歓迎」と募集したところ、熱海の人手不足に悩む企業にあっという間に100人ほどの応募が集まりました。

ほとんどのケースで話はすぐにまとまり、応募者は現地で大活躍しています。さらに今年は独自の募集サイトを立ち上げ、副業をしている応募者を積極的に地元中小企業とマッチング、新たな事業の創出を狙おうとしています。

自治体の人材争奪戦が起き「公務員戦国時代」に

さらに、自治体でも大きな変化が見られます。例えば、四條畷市(大阪府)では、東修平市長が2017年の当選後、すぐに全国に女性副市長を公募しました。その結果、リクルート「SUUMO」の元編集長の林有理氏を採用。林さんはその後、大活躍されています。

同市では今年さらに全7職種にわたる中途採用の募集に踏み切り、なんと1100人以上がエントリーしています。テレビ会議を用いた面接を行うなど、徹底的に応募する側の立場に立った採用手法は非常に好評です。しかも、同市は中途採用の本格化と同時に報酬制度や職種の権限も適宜見直しながら、優秀な人材を獲得する方針です。東市長は「これからは自治体の人材獲得が激化し、公務員戦国時代になる」と語っています。

こうした例でおわかりのとおり、従来とは異なる地方の価値を創り出すために、新たな雇用形態を採用したり、募集方法を抜本的に変えたりしたところには、これだけ多数の応募があるわけです。「人手不足だから、どこもかしこも人が集まらない」ということではなく、工夫によっては人が集まるわけです。

結局、「人が来ない、若者が悪い」などと文句を言っているだけで、過去のやり方を変えようとしない組織や地域からは人が去り、今の時代に合わせ、働く側に沿った採用・雇用を推進すれば人は集まります。

そもそもとして、地方に必要なのは人口ではありません。「安く、たくさんが普通で、万年赤字体質」といった既存の産業構造を変え、「稼ぐ地域」に変化を遂げることが何よりも重要です。そのためには、従来の仕事をそのまま次の世代に押し付けていては、地域の持続可能性は担保されません。「人口1人当たりの所得」を増やしていく先にこそ、少ない人口であっても地域は存続します。

地方のマネジメント層の方々は、単に人手不足を嘆くだけでは失格です。地方でも多くの人を集める職場に学ぶことが、多々あるのではないでしょうか。

木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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