中学受験で第1志望を蹴った少女の力強い選択 苦しいサピックス時代、母の入院を経て…

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幼い妹と弟の身支度を整え、登園バックを準備、ファミサポさんを待つ毎日が始まった。学校から帰ると父親とともに夕食づくり、塾から帰れば休む間もなく妹と弟をお風呂に入れた。忙しい母親を気遣って、普段から手伝いはよくしていた瑞穂ちゃんだが、それはあくまでも手伝いだ。自分が中心となってこなすのは初めてのことだった。

母親の病室にお見舞いにきても、弱音ひとつこぼさない。「大丈夫、みんな元気でやってるよ。勉強も順調だよ」と話すわが子。

「受験勉強だけに集中させてやらなければいけない時期に、下の子の学童のお弁当や、時には父親のお弁当まで作っていたようで、不憫でした」(純さん)

瑞穂ちゃんも疲れが出たのか、12月の最後の模試では39度の高熱を出す事態に。結果は偏差値30台後半と散々なものだった。志望校を決定する重要な模試で出してしまった過去最低記録。肩を落としてうなだれる娘に、かける言葉が見つからない。

しかし、瑞穂ちゃんはへこたれなかった。出てしまった結果は結果。気持ちを奮い起こして「頑張る!」と声を張り上げた。1月に入ると塾も自習用に教室を解放、試験直前には学校を休んで塾に通い、試験に向けての勉強に全精神を集中させた。

迎えた受験、2月1日から4日の日程で2校を受験。はじめに合格を手にしたのは第2志望の共学校、その後、最後の最後で勝利の女神が瑞穂ちゃんに微笑んだ。なんと、第1志望の学校に繰り上がりで合格となったのだ。

「第1志望校を蹴る」という娘の決断の真意

ところが、熱望してきた第1志望を、瑞穂ちゃんは選ばなかった。なんと偏差値が10以上も下がる、第2志望の共学校に行くというのだ。

「もしかすると、家のことを考えたのかもしれません。第2志望の合格の後、すぐに入学金を納めなくてはいけなくて、第1志望校の合格を待つことができなかったんです。入学金を払っていることは彼女も知っていましたから」

母親は何度も問い返した。「行きたい方を選んでいいんだよ」。だが、本人の意志は変わらない。

「だって、こっちの方が獣医学部に入る近道になると思うの」(瑞穂ちゃん)

偏差値もネームバリューも第1志望校の方が上だ。「なんで」と思う親をよそ目に、娘の意志は固かった。

「今でもこの選択が本当によかったのかはわかりません、本当に……。私のほうはまだ腑に落ちない気持ちが強いです。でも、偏差値やネームバリューのある学校のほうがいいと思うのは、親のエゴでしかないのかもしれませんね」(純さん)

第2志望の学校は、鎌倉エリアにはなく、通学距離もはるかに遠い。それでも瑞穂ちゃんは生き生きと中学ライフを楽しんでいる。

中学受験は、まだ子どもが幼い中での大きな決断になるだけに、親主導で進むことも多い。エゴか、子を思う親心か。その境界線は実にわかりにくい。

子どもの側も、親の言うとおりにするのが安心と思う面もあるだろう。瑞穂ちゃんのようにこの年で自らの進路を毅然と選ぶというのは、当たり前のことではないかもしれない。

母親の純さんが抱くモヤモヤは、単に「せっかくなら偏差値が上の学校に」ということだけでもないだろう。わが子が自分の意見を持ち、自分の道を自分で選択するようになった、いわば子が巣立つことへの戸惑いであり、むしろ親側が喜んで向き合わねばならない壁なのかもしれない。

病気の母と家族を献身的に支えながら、受験を成功させ、毅然と道を選び取った瑞穂ちゃん。「夢は獣医になること」という幼い頃からの思いを強めながら、成長への階段をブレることなくしっかりと歩んでいる。

本連載「中学受験のリアル」では、中学受験の体験について、お話いただける方を募集しております。取材に伺い、詳しくお聞きします。こちらのフォームよりご記入ください。 
宮本 さおり フリーランス記者

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みやもと さおり / Saori Miyamoto

地方紙記者を経てフリーランス記者に。2児の母として「教育」や「女性の働き方」をテーマに取材・執筆活動を行っている。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。

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