進取の気性「ゆふいんの森」が駆け抜けた30年 独特のデザインに「物語」を重ねて増す存在感

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接客のノウハウは先輩から後輩へ受け継がれる。2015年入社の客室乗務員、林田弓佳さんは「毎日毎日、違うお客さまといろいろな話ができ、新婚旅行や記念日を一緒になってお祝いできるのがこの仕事の魅力です」とやりがいを感じている。

この列車が飽きられることなく走り続けて来られたのは、一期一会を大切にする客室乗務員の工夫と努力の賜物、といえそうだ。

「あの時代になかった概念」

JR九州という鉄道会社にとってゆふいんの森とはどのような存在なのか。青柳俊彦社長に尋ねてみた。

久大本線の全線復旧当日、ゆふいんの森で日田駅に到着したJR九州の青柳俊彦社長=2018年7月14日(記者撮影)

青柳社長は運行開始当時を振り返り「お座敷列車が全盛期の時代に、まったく新しい概念の観光列車を投入した。定期列車の特急で全車指定という、あの時代になかった概念を持ち込んだ」と位置づける。そのうえで「女性受けするデザインで、乗った時から観光気分になれる、まったく新しい提案だったからこそ、30年の長きにわたってお客さまに支持されてきた」と感慨深く語った。

沿線人口の減少が目に見えている中、いかに魅力を高めて観光客を呼び込むかは、同社に限らず、各地の鉄道会社が共通して抱える課題だ。同社も今年策定した2021年度までの中期経営計画に、沿線活性化の施策として「新D&S列車運行を通じた更なる観光資源の発掘」を盛り込んだ。

ゆふいんの森(Ⅰ世)はヨーロッパの保養地のホテルのような内装が特別感を出している(記者撮影)

次はどのような仕掛けを備えたD&S列車を投入するのか。青柳社長は「乗りたくなるようなデザインとストーリーを持った新しい列車を今後も提供しようと勉強している。決まり次第発表したい」と思いを込める。

ゆふいんの森が30年を経て今なお国内外から多くの観光客を引きつけるのは、車両のデザインに特別感があるから、といった理由だけでない。見た目重視の観光列車を造って満足することなく、乗客と客室乗務員、沿線の人々が絶えずストーリー(物語)を吹き込んできたからこそ、長く愛される存在になったと言える。

次に登場するD&S列車にも、ゆふいんの森の進取の気性と30年間で蓄積した知見が引き継がれていくはずだ。

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橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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