進取の気性「ゆふいんの森」が駆け抜けた30年 独特のデザインに「物語」を重ねて増す存在感

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JR九州は自社の観光列車を「D&S(デザイン&ストーリー)列車」と呼ぶ。「特別なデザインと運行する地域に由来する物語を有する列車」との定義だ。

その物語を引き立てるのが同社で約100人いる客室乗務員だ。車内ではワゴンやビュッフェでの販売を担当したり、記念撮影を手伝ったりと、目的地へ向かう途中も退屈せずに楽しんでもらおうと工夫を重ねている。

客室乗務員は車内販売や写真撮影で乗客をもてなす(記者撮影)

「自分が子どもの頃に親に乗せてもらい、今度は親の記念日に連れてきた」「結婚間もないころに乗ったことがあったが、銀婚式のお祝いにまた乗りに来た」。運行の歴史が長く、非日常の特別感があるゆふいんの森は、人生の節目の記念旅行で利用される機会が多い。それだけに乗客の高い期待に応える力量が客室乗務員には求められている。

客室乗務員は「察知する」

だが、参加者と事前に電話などでやり取りをする「ななつ星」とは違い、ゆふいんの森は当日の目的地までの限られた時間の中で、乗客一人ひとりの「物語」を感じ取り、よい思い出が残る旅にしてもらわなくてはならない。JR九州サービス部サービス課マネジャーの松浦広太さんは「お客さまとの接点を持つことによって察知するのが乗務員たちの持てるスキルで、それが大きな付加価値になっている」と説明する。

客室乗務員の林田弓佳さん(左)と江副希美さん(記者撮影)

ゆふいんの森の乗務が長いパーサーの江副希美さんは「『何か記念のご旅行ですか?』と聞けば簡単だが、そうではない方法で見つけなさいと先輩から教わった。お客さまとの接点を多くしなさいとずっと言われてきた」と話す。「指輪がキラキラしているから新婚かな、とだいたい察することができる」という。今日は記念の旅行だろうと感じたらまずは「お弁当はお口に合いましたか?」といった声がけから会話のきっかけにするそうだ。

同社の観光列車の中でもゆふいんの森は1運行当たりの乗客が多い。5両編成で満席の場合、約260人が乗車することになるが、サービスにムラを出さないためにも車掌や一緒に乗務するクルーとの情報共有は欠かせない。

1列車には基本的に4人が乗務。ビュッフェやワゴンの担当者が決まっている。記念写真用の日付入りパネルを持って車内を回る「フォト担当」もいる。全号車を1巡するために「写真撮影は日田~天ケ瀬間ぐらいで終える」といった目安はあるが、途中駅で乗り降りをする乗客へも気を配る。スイーツやオリジナルグッズを販売するワゴン担当も1往復はできるようにしているという。

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