今では全国の鉄道で当たり前になった銀色のステンレス製車両。その技術の発展に功績を残した車両が、平成が終わる少し前にひっそりと第一線から姿を消した。東急電鉄の田園都市線を走っていた「8590系」だ。
「最後のお勤め」は2月27日の朝、長津田駅7時45分発の準急・清澄白河行き。まだ肌寒さの残る薄曇りの空の下、銀色の電車はいつものように大勢の通勤客を乗せ、30年超にわたる東急線での仕事を無事終えた。
当日、沿線でカメラを構える鉄道ファンはごくわずか。静かな「ラストラン」だったが、人々の暮らしを地道に支えてきた通勤電車らしい最後だったかもしれない。
「軽量ステンレス」の元祖
東急線といえば「銀色の車体に赤いライン」というイメージを持っている人が多いだろう。8590系は、東急のステンレス車で初めて側面に赤いラインを入れた「8090系」の一族だ。ちょっとややこしいが、より正確に言うと8590系は先頭車両のことで、中間の車両は8090系だ。
「軽量ステンレスの、いい車だったと思います」。これまで同車両を見守ってきた東急電鉄車両総合事務所工事区長の市川裕幸さんは、8090系・8590系についてこう語る。
軽量ステンレス車とは、アメリカのメーカーに学んだそれまでの製造技術から脱皮し、独自の設計で大幅な軽量化を図った車両。1980年代以降、全国の鉄道で急速に導入が進み、ステンレス車両全盛の時代を築いたが、その量産化第1号が8090系だった。
8090系は1980年に東横線にデビューしたが、80年代半ばにみなとみらい線との直通計画が決定。正面に貫通扉(非常口)のある地下線対応の先頭車両が必要になり、1988年に先頭車両だけを新たに造った。これが8590系だ。
この際に編成を組み替え、もともとの8090系の先頭車をつないだ編成は大井町線に移籍。8590系をつないだ編成は一時的に田園都市線で使われたものの、長らく東横線で活躍した。2006年に2本が田園都市線に移籍し、それ以来同線の通勤輸送を担ってきた。
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