その後の標準となるさまざまな要素を盛り込んで造られた8090系だが、新機軸は車体の軽量化につながる部分が中心。制御装置などの機器類は、現在も田園都市線を走る1世代前の「8500系」とほぼ同じだ。「運転台だけは若干違いますが、ほかは変わらないです」と市川さんは言う。
現在から見ると、前世代の造りを引き継いでいる部分も多い。その1つが、モーターに流れる電流の量を調整して速度を制御するための「抵抗器」。床下にずらりと並んだ小さな箱状の装置だ。「これのメンテナンスは難しいですね。3カ月に1回の検査では碍子もピカピカに磨きます」。
1980年代半ば以降、電車の制御システムは半導体技術を駆使したインバーター制御などに変わり、抵抗器を積んだ車両はほぼ造られなくなった。東急でも1986年に登場した「9000系」以降はすべてインバーター制御となり、抵抗器を積んだ車両は残り少ない。
車内にも前世代の特徴が現れている。30年以上の歴史を刻んだ「床」だ。市川さんによると、現在の車両は床材を貼って仕上げているが「この車両は、床材を流し込んで職人がコテでならして造っているんです」。あちこちに見られる継ぎ当ては、傷んだ部分などを切り取り、床材を流して修復した部分だという。さながら車両の「年輪」だ。
東急から消えても活躍は続く
一時代を築いた8090・8590系も、2007年から一部の廃車がスタート。2013年には大井町線を走っていた車両がすべて引退し、残るは田園都市線の8590系2本のみとなっていた。そして2019年の春を待たず、最後の8590系は東急線から姿を消した。
より古いタイプの8500系がまだまだ現役な中で一足早く引退したのは、東京メトロ半蔵門線を介して直通運転を行う東武線への乗り入れに対応していないためという。8590系は東横線から田園都市線に移籍する際、東武線対応の設備を搭載しなかった。「乗り入れに必要な編成数が足りていたため」(東急)だ。少数派の悲哀かもしれない。
だが、さびない丈夫さが長所のステンレス車両だけあって、東急線からほかの路線に舞台を移し、「第2の人生」を歩んでいる車両もある。埼玉県の秩父鉄道には8090系、富山県の富山地方鉄道には8590系が譲渡されて現役だ。東急によると、今回引退した8590系も先頭車両は富山地方鉄道に渡り、今後も走り続ける予定という。
日本の鉄道が「銀色」に染まる大きなきっかけになったともいえる電車。新たな舞台で、その活躍はこれからも続きそうだ。
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