JR九州の路線は、雄大な山々と渓谷の豊かな水が生み出す食文化、温泉といった観光資源に恵まれる半面、地震や豪雨などの自然災害にしばしば悩まされてきた。大分と阿蘇、熊本を結ぶ豊肥本線は、2016年4月の熊本地震で大規模な土砂崩れの被害を受け、現在も一部が不通となったままだ。
ゆふいんの森が活躍の舞台とする久大本線は2017年7月、九州北部豪雨で光岡(てるおか)―日田間の花月川橋梁が流される被害に見舞われた。当初、橋の架け替えに3年ほどかかるとみられていたが、行政などの協力を得て冬の渇水期以外にも工事を進め、ほぼ1年後に同区間を含む全線の復旧にこぎつけた。
この約1年の間、活躍の舞台を奪われる格好となったゆふいんの森は、運休したままじっと再開を待っていたわけでない。通常の久留米経由でなく、博多―小倉―大分―由布院と九州の東側の日豊本線を通る迂回ルートで走り続けた。通常ダイヤの特急などの間を縫って走るため、所要時間が5時間を超える列車もあった。
この異例ともいえる策は、大都市福岡と九州を代表する観光地とを結ぶこの列車の役割をJR九州がいかに重要視しているかを示している。
災害からの復旧の象徴
そして迎えた2018年7月14日の久大本線の全面再開。同社と沿線の自治体などは「久大本線 ぜんぶつながるプロジェクト」と銘打って各所でさまざまな関連イベントを展開した。主役はもちろんゆふいんの森。沿線の住民らが復旧後の1番列車の通過に合わせ、風船を空に放って歓迎した。
日田駅のホームでは大分県の広瀬勝貞知事や日田市の原田啓介市長らが出席して記念セレモニーを開催。地元の観光関係者らが詰めかけたホームで広瀬知事は「不通になってみると久大本線のありがたみがよくわかる。地域の経済の動脈としても、内外の観光客にとっても重要な路線だ」と強調。花束を贈られた日田駅の森山益行駅長(当時)は「本日を新たな出発点と捉え、地域の発展に尽くしたい」とあいさつした。
その後、祇園囃子(ばやし)が駅構内に響く中、博多駅から到着した全線復旧後のゆふいんの森1番列車を地元の子どもたちが旗を振って出迎えた。同様の光景は日田駅だけでなく、鳥栖、久留米、天ケ瀬、豊後森、由布院の各駅でも見られた。この日のゆふいんの森は久大本線の復旧を象徴する列車として沿線の人々の記憶に残った。
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