FRBは「サプライズ狙い」の6月利下げを行うのか 局面変化を予感させた6月7日公表の雇用統計

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では、予想される利下げのタイミングはいつなのか。FF金利先物市場の織り込みは7月が80%弱とほぼ既定路線になりつつある。7月以降、債券市場がメインシナリオに据える年内2回の利下げが実行された場合、アメリカ10年金利は2%が定着しているだろうし、ドル相場も一段と値が切り下がっているだろう。対円で105円程度、対ユーロでは1.16程度を臨む展開は不思議ではない。

しかし、それがメインシナリオだとするとリスクシナリオもある。現状、「7月以降、年内で2回利下げ」は市場予想の範疇であり、織り込み済みだとすると、サプライズ狙いで6月18~19日の会合で利下げという可能性も否定できないのではないか。多くの市場参加者は声明文では「次の一手」が利下げであることを示唆する程度の動きを想定しているが、一気に踏み込んでくる可能性もないとは言えない。

日銀やECBよりははるかにマシだが、FRBとて残されたカードに余裕があるわけではない。例えば1回の利下げ幅を「0.25%ポイント」とした場合、出せる利下げカードは9枚である。これから繰り出す緩和的な一手については、最大の効果が乗るように工夫を凝らしたいところ。そのように考えると「サプライズ狙い」の可能性は否めない。多くの市場参加者は今月のFOMCにおける利下げを想定していないが、思わぬドル安・米金利低下をもたらすリスクも念頭に置きたい。

アメリカの通貨・金融政策は絶対である

予想が困難な為替市場において「米国の通貨・金融政策は絶対である」という論点は鉄則であり、日銀やECBがこれに対抗しようとしても限界がある。とりわけ、多額の経常黒字や上がりにくい物価を擁する通貨である円やユーロは、それは受け入れなければならない運命だと筆者は考えている。

過去5年の金融市場では「FRBの次の一手は利上げ」という大前提があり、それがアメリカの金利もドルも上昇させてきた。しかし、今後は雇用統計に象徴されるアメリカ経済の失速を理由としてFRBはハト派色を強め、アメリカの金利とドルの全面的な調整がしばし必要な局面に入ると思われる。

厄介なことに政治、すなわちトランプ大統領もこれを望んでいることをまったく隠さない。ここまでアメリカの政治・経済・金融情勢がアメリカの金利・ドル安志向を一致して示す環境も珍しいだろう。

筆者は経済の基本指標と金融政策の動向を前提に各通貨の動きを考察することを為替見通しにおける基本姿勢としており、通商政策やブレグジットなど政治色の強い材料はこれに付随するサイドストーリーに過ぎないと整理している。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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