「役に立つ学問」が事前にはわからない根本理由 「モンゴル×超ひも理論×シロアリ」で考える

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ただ、これらはいずれも「裏返しの動機」で始めた研究であり、注目が集まっても、あまりうれしくはないという。

小長谷有紀(こながや ゆき)/1957年、大阪府生まれ。京都大学文学部助手、国立民族学博物館教授などを経て、現在、日本学術振興会監事、国立民族学博物館客員教授。紫綬褒章受章。著書に『人類学者は草原に育つ』(臨川書店)、『ウメサオタダオが語る、梅棹忠夫』(ミネルヴァ書房)など(写真:サントリー文化財団)

もともと、モンゴルにおける遊牧文化の優位性や豊かさを証明しようと研究を始めた小長谷氏は、農業は土地に適していないと考えており、何かにつけてチンギス・ハン絡みでモンゴルが語られることにも抵抗を感じていた。

そうした反発や批判的視点が研究のきっかけになったのだが、世間にはそれらばかりが求められる「逆転現象」が起きていると苦笑し、こう続けた。

「私たち人文系の『知』は、いつ、誰にとって有用になるかは未知であり、それを考えずにやることに価値がある。成熟した社会はどんな知も有効活用する。わたしの論文も、活用するかどうかはあなた次第ということ」

続く橋本氏は、「世界でも数少ない超ひも理論の専門家で、この理論を理解している人の数はパンダの生息数より少ない」と大竹氏から紹介された。

橋本氏が説く理論物理学の歩み

「理論物理学とは、この宇宙で起こるすべての現象を数式で解明すること」と説明し、最も有名な物理の数式の話から始めた。アインシュタインの特殊相対性理論から導き出された「E=mc2」。Eはエネルギー、mは質量、cは光速で、「質量はエネルギーに変わりうる」という意味を表す。

橋本幸士(はしもと こうじ)/1973年生まれ、大阪育ち。東京大学大学院総合文化研究科助教、理化学研究所准主任研究員(橋本数理物理学研究室主宰)などを経て、現在、大阪大学大学院理学研究科教授。博士(理学)。著書に『超ひも理論をパパに習ってみた』(講談社サイエンティフィック)、『Dブレーン』(東京大学出版会)など(写真:サントリー文化財団)

「この式が広く知られているのは、ここから原爆が作られたから。原爆は、膨大なエネルギーを質量から取り出している。人類の歴史を変えたという意味では、いちばんインパクトのあった物理の式でしょう」と橋本氏。

人類史を大きく変えたその数式は、論文にして3ページ、黒板に書けば畳二畳分ぐらいの「極めて短い式変形で、簡単に導き出せる」という。その時代から飛躍的に進んだ現在の素粒子物理学については、こう語った。

「2012年にヒックス粒子という素粒子が欧州の加速器で発見され、それによって、半世紀前に提唱された『素粒子の標準模型の作用』と呼ばれる式が完成した。物理学はどんどん統合が進み、E=mc2をはじめ、さまざまな法則が1個の式から導出される。宇宙の現象を調べるにはまず、この式が正しいのか、どうやって計算するのか、計算した結果、現象にどう当てはめるのかということを逐一検証していく。量子力学の発見から1世紀で、人類はここまでの高みに到達した」

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