――靖国参拝が予想外だったので、米政府は慌てて反応したのか、それとも熟慮したものだったか。
安倍首相の靖国参拝は誰もが予期しなかったわけではない。いくつか兆候はあった。たとえば、昨年10月、彼の特別顧問の萩生田光一議員が参拝している。安倍首相が参拝に強い気持ちを抱いていることはオープンにされており、7年前の第1期安倍政権時に参拝しなかったことを痛恨の極みと言っていた。参拝は現実的な可能性として米政府は考えていたはずだ。そのタイミングがサプライズだったのは、自民党幹事長や連立与党の公明党党首が不意打ちを食らったことだろう。彼らに知らされたのは安倍首相が靖国に向かう車の中からだったという。
米政府にも事前には知らせなかったというのは、起こりうる可能性のある反動をいかに小さくするかという安倍首相一流の作戦だったのだろう。
「米国は黙認」という考えは妄想だ
――そのタイミングは沖縄問題および米軍海兵隊基地移転の交渉進展に合わせたものだと思いますか。
それが確かなことかどうかはわからないが、安倍首相が沖縄問題の進展を計算に入れていたという報告はあった。米政府は沖縄問題の進展を歓迎し、安倍首相の靖国参拝を大目に見てくれるのではないかと。
安倍首相はそういう計算をしたかもしれない。しかし、それは米政府の見解を正確に読んでいるとは言えない。靖国参拝は米国の意に明らかに反する。しかも、米国はそのことを追及すべきではないし、外交政策として“取引材料になるような”ことを追及していると見られるのもよくない。安倍首相が靖国参拝を考えていることについて、米国は「ウインクしてOKした」という寛大な態度をとった、という可能性はゼロだ。
米国人の選好がどういうものかということは、昨年10月にはっきりと示されている。ケリー国務長官とヘイグ国防長官が一緒に参拝したのは靖国神社ではなく、千鳥が淵墓苑(第2次世界大戦時の無名戦没者が祀られている)だった。そのことにこそ、米国人が戦没者に抱いている気持ちを正しい認識として示している。
安倍政権の靖国参拝は、米国から黙認されたものと考えるのは妄想であり、希望的観測にすぎない。
一方、安倍首相が沖縄・普天間処理などで政治的得点を上げ、米国としては日本側の多少の不満を飲まざるをえないという計算はありうるだろう。
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