プロセスと対話を重視するオービック流「人材定着」術

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社員の負担軽減と顧客満足の向上

上場して2年後の02年、野田氏は会長に就任し、当時の専務に社長職を譲る。新社長は業績拡大を狙い成果主義を導入。それに伴い、社員評価を従来の1年単位から、四半期ごとの数字を重視する形に変えた。数値目標を与えられ、達成できなければ無能の烙印を押される社内のムードに、社員は焦り始めた。それまで長期的な視野で若手を育成していた中堅も、部下の業績達成が自分の評価に連動するため、目先の実績を迫るようになった。「マラソン経営」と称し、長期的視野で社員を評価していた同社の雰囲気が、ガラッと変わってしまったのだ。

営業マンは成績向上のため赤字となりそうな案件でも受注。SEは無理な受注により残業を強いられ、それでも消化できずに、外部への開発委託が増大。ますます採算が取れなくなるという、多くのシステム会社が陥る悪循環が始まった。「青いリンゴ(不採算案件)を食べて腹痛を起こしているような状態だった」と野田会長は振り返る。

危機感を募らせた野田会長は05年、13年連続営業成績1位の名物社員で、当時は横浜支店長を務めていた橘現副社長を東京に呼び寄せた。

橘氏はそれまで別フロアで作業していた営業とSEを同一フロアに机を並べる製販一体体制へと変更し、コミュニケーションの活性化を図った。両輪が緊密に連携することで、無理な納期の設定や受注内容を回避できるようになり、不採算案件は7~8割も減少。伸び悩みぎみだった営業利益率も少しずつ上向きだした。加えて営業にSEが同行することで技術的に突っ込んだ話ができるようになり、「信頼感が上がった」(首都圏担当営業マン)。社員にも夏休みを取る余裕が戻り、上昇していた離職率も低下していく。

この改革は、社員の負担減だけでなく、顧客満足度の向上にもつながったという。代理店を経由せず100%直販がオービックの特色。営業とSEが緊密に連携して顧客をフォローすることで、システム障害時などの対応が迅速になり、不満や要望をじかにパッケージソフトの改良に反映できる。顧客である中堅・中小企業は情報システム部の人材が手薄な場合が多く、「技術の革新より何より、きめ細やかなサポートがすべて」(橘副社長)だ。そのため離職が多く担当者がコロコロ変わると、自社にノウハウが蓄積しないばかりでなく、相手先の不満にもつながる。ある顧客は「他社より少し割高でも、4年間担当者が変わらず安心。問題時の対応もスピード感がある」と満足気だ。

純血主義への批判も 大手との大競争へ

これまでのところ、営業利益連続増益の原動力として機能している独自の“純血主義”だが、アナリストからは批判も少なくない。「即戦力の中途採用をしないので成長スピードが遅い」「M&Aによる事業強化が進まない」などだ。それに対し、「顧客満足度と社員満足度を上げれば、社会は認めてくれる」とまったく意に介さない野田会長。

ただし、この不況下である。IT化が遅れる中堅・中小企業向け市場は、残された成長市場として大手ソフトウエア会社が虎視眈々と狙う。オービックの事業の核となるERP(業務システムの一元化ソフト)は、大手企業のほとんどが導入済みだが、中堅・中小企業の導入率はいまだ3割程度にすぎない。そして従来、大企業が主要顧客だったSAPや日本オラクルまでもが、販売代理店を増やし、強大な体力を持って攻め込む準備をしている。もともとソフトメーカー各社がひしめき合うこの市場で、競争が激しくなるのは避けられない。

橘副社長は「パートナーを使った間接販売では顧客のニーズを拾えない。脅威とは思わない」と揺るぎない自信を語る。地をはうように一歩一歩成長を重ねてきたオービック。一回りも二回りも図体の違う巨人たちとの戦いを、“マラソン”で鍛えた底力で勝ち抜けるか注目だ。

(麻田真衣 撮影:梅谷秀司、風間仁一郎 =週刊東洋経済)

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