「日本の経営」を創る 社員を熱くする戦略と組織 三枝匡/伊丹敬之著 ~「論理性」と「熱き心」で新しい「日本流経営」を

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「日本の経営」を創る 社員を熱くする戦略と組織 三枝匡/伊丹敬之著 ~「論理性」と「熱き心」で新しい「日本流経営」を

評者 YSコンサルティング代表 黒田康史

 今はまさに世の中の大きな転換期だ。100年に一度とも言われる米国の金融危機を契機にして、今まで隆盛を誇っていたアングロサクソン型資本主義や米国流経営の根幹が揺らいでいる。同時に、未曾有の世界的な経済危機が波及して、これまで好調だった輸出型企業をはじめ、多くの日本企業が苦境に喘ぎ始めた。

本書は、まさにこうした状況下、日本企業が新しい「日本流経営」を目指すうえで大いに役立つヒント満載の好著と言ってよい。「人本主義」を基本とする経営学者・伊丹氏と、経営の現場を知り尽くした企業再生請負人・三枝氏の組み合わせが豊かな内容を醸し出す。両著者はこれまでもそれぞれ多くの著作を単独で世に送り出しているが、本書はいわばそれらを踏まえての集大成となっている。本書はまた、ほぼ1年かけた2人の対談を、その形式を生かして盛り込んでおり、読みやすいのも魅力のひとつだ。

本書は、まず米国流経営と従来の「日本的経営」との比較分析を行い、両者の弱みを整理することから始める。そのうえで、米国の後追いではなく、新しい独自の「日本流経営」を創り出していくための議論が展開されている。

米国経験が豊富で、米国流経営の強みと弱みを知り尽くしている2人は、その模倣が日本企業を弱体化させたとして、米国流経営に批判的であり、その議論に説得力がある。また、「日本流経営」を活性化させるには、ベンチャーではなく既存企業を元気にさせることが必要という議論についても大いに納得させられ、興味深い。

本書によれば、新しい「日本流経営」の確立には、若い時からの経営者人材の育成が鍵となる。それには、理論と現場との間の往復の中で、これまで日本人が弱かった「抽象化、理論化、敷衍化」の徹底が必要だ。一方で、日本の強みである長期視点経営や組織の中で働く人たちのレベルに合わせた戦略構築等も大切だ、とする。

そして、これらを実践するには、「スモール・イズ・ビューティフル」の組織理念のもと、「創って、作って、売る」機能を備えた小規模組織をデザインし、そこで働く人たちに自律性を与え、権限委譲を行うことが有効と説いている。

また、経営者は「論理(戦略)性」と「熱き心」が必要とも説く。「論理性」によって人の心を動かす戦略をつくり、「熱き心」によって現場の人たちの目が輝いている組織にする。評者の経験からも、「論理性」と「熱き心」の大切さは同感でき、特に「熱き心」の重要性は再認識しておきたい。

さえぐさ・ただし
ミスミグループ本社会長・CEO。1944年生まれ。一橋大学経済学部卒業。米スタンフォード大学MBA。三井石油化学、ボストン・コンサルティング・グループ、一橋大学大学院客員教授などを経て、2008年より現職。

いたみ・ひろゆき
東京理科大学総合科学技術経営研究科教授。1945年生まれ。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。米カーネギーメロン大学Ph.D.。米スタンフォード大学客員准教授、一橋大学大学院教授などを経て、2008年より現職。

日本経済新聞出版社 1995円  390ページ

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