板挟み「中間管理職」こそ会社の宝である理由 組織の「知識創造」はいかにして行われるか
ところが、日本企業の多くはミドルアップダウン・マネジメントだ。 「中間管理職は上から怒られ、下から突き上げられる」と言われ、悲観的に語られることも多い。だが、実はそれが大事なのだ。中間管理職がトップの理想と現場が抱える現実の矛盾を解消することで、組織で知識が創造されていく。
わかりやすいのが、ホンダの取り組みだ。ホンダの事例を参考に、いかにミドルアップダウン・マネジメントで知識が創造されるのかを見ていこう。
ここで参考にしたい本がある。『知識創造企業』(野中郁次郎/竹内弘高著)だ。「知識社会」と言われる現代では、企業が生み出す「知識」が競争力を左右するが、1990年頃までは知識が企業の中でどのようにつくられるのか、よくわかっていなかった。
1995年に出版された本書は、日本企業の数多くの事例研究を通して「組織的な知識創造」を理論化し、世界に高く評価された1冊である。かつての日本企業の成功は、組織的に知識を創造する仕組みを持っていたおかげなのである。
組織で知識を生み出す「SECI(セキ)モデル」
組織で知識が生まれる仕組みをモデル化したのが「SECI(セキ)モデル」だ。暗黙知と形式知が4フェーズで変換され、組織で知識が創造されていく。
1981年にホンダが発売した「シティ」を例に考えよう。当時は背が低くて平たい車が多かったが、シティは小さなエンジンを積み、コンパクトで背が高い独特なデザインで大ヒットした。ホンダは「冒険しよう」というコンセプトで新しい車をつくることになり、若手技術者やデザイナーでチームを結成した。トップは「低価格だが安っぽくない、既存モデルと根本的に異なる車を開発しよう」と指示した。
個人同士で経験を共有し、新たな暗黙知を生む段階だ。ホンダは「ワイガヤ」と呼ばれる手法で、個々のメンバーが持つ経験や暗黙知を徹底的に話し合い、問題意識を共有した。
暗黙知を明確なコンセプトに表現する段階だ。 「冒険しよう」というトップの方針を受け、リーダーの渡辺洋男氏が「クルマ進化論」という概念を考え出し、メンバーに「車が生命体ならどう進化するか?」と問いかけた。メンバーは議論を重ね「車は球体に進化する。全長が短く背が高い車は、軽くて値段が安く、居住性と頑丈さもすぐれるはずだ」と考えた。そして「マン・マキシマム、マシン・ミニマム」「トールボーイ」などのコンセプトが生まれた。
【連結化(形式知→形式知)】
コンセプトを組み合わせ、知識体系をつくる段階だ。ホンダはコンセプト「トールボーイ」で、都市型カー「ホンダ・シティ」をつくり上げた。
個々人が学んだ暗黙知を組織に広げる段階だ。シティ開発メンバーは、その後、学んだ経験をさまざまなプロジェクトで活かすようになった。
このように知識を生み出すには、知識を共有する多様な場を社内に用意することだ。ホンダでは、先にも紹介した「ワイガヤ」という手法がある。合宿で行う場合の参加者は7〜8人。具体的なテーマを3日3晩、延々と議論し続ける。
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