靖国参拝は日本の戦略的利益にとって無意味 ダニエル・スナイダー氏に聞く

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--2014年、そしてその先を見通して、靖国参拝は日米関係に波及すると考えますか。米国は安倍首相を避けようとするでしょうか。オバマ大統領は今年4月に予定通り東京を訪問するでしょうか。

「米国が安倍首相を避けられるとは思わない。米国政府は安倍首相と協力すべきだ。この問題で、特に日韓間の歴史問題を処理する直接的な役割を米国が担うべきかどうかという問題が浮上したと思う。そんなことは絶対にすべきではないという米国当局者も多い。バイデン副大統領は、12月の訪問で『米国は仲介者にはならない』と述べ、反対の意思を表明した。

これが現在も米国の方針となっているが、私は米国がこの役割を引き受けることについて考えようとする人が増えると思う。これはリスクがある行為であり、日本政府にとってもうれしくはないだろう。中国にとっても同じだ。韓国にとってはこうした米国主導については歓迎するだろう。オバマ大統領が4月にどうするかは私にはわからない。それまでの間に何が起こるかによっていろんなことが変わってくるからだ。

中国と韓国が安倍首相に会うのを拒否し続けるのは誤りだと思う。安倍首相と会談し、歴史問題をはっきりと議題にすればいい。歴史問題に扱わずに安倍首相に会うことは不可能だろう。それよりも、歴史問題を正面から取り上げて首脳会談を行うほうがいい。

 関係改善能力を持つ関係国不在が心配

私が心配しているのは、小泉首相が靖国に繰り返し参拝したことで生じた緊張関係の影響が残る中、安倍首相自身が2006年に行ったように、話し合いにより関係を改善させる能力が関係国にあるように思えないことだ。私は、米国が介入してこうした議論を促進させるべきだと考える。米国は、歴史問題を未解決にしたまま戦後の合意を形成したわけだから、米国には介入する責任がある。

--こうした状況の中、北朝鮮の動きをどう考えますか。

「日米当局者間には、これまでかなり長い間、朝鮮半島への認識ギャップがあった。日本は、尖閣諸島や中国の西太平洋への進出など、中国との領土問題を取り組むべき安保問題と扱ってきた。もちろん、長期的観点ではそれを理解するが、米国側では短期的に最も懸念しているのは北朝鮮の非常に不安定な状況だ。北朝鮮の政権は、最近になって冷酷な内部粛清を始めた。次に何が起こるのかはわからない。韓国との緊張が高まる可能性は高い。緊張が高まり、エスカレートして、2010年にあったような衝突さえ起こると想像してほしい。米国当局は北朝鮮が断念するように中国に説得してもらおうとするだろう。この問題においては、日本と米国の戦略の間には潜在的なギャップがあるのだ。

--では、米国は安倍首相の態度を支持するように見せずに、どうやって安倍政権と協力していくのでしょうか。

「だからこそ、オバマ政権は靖国参拝の直後に批判の声明を発表した。米国当局は、米国が安倍首相の行動を事実上承認していないということをはっきりさせたかったのだ。タイミングはかなり微妙だった。オバマ政権は、まさに翌日に発表されることとなる沖縄普天間問題のいわば交換条件として、靖国参拝を暗に認めるものではないとはっきりさせたかった。オバマ政権がどうしても避けたかったのは、沖縄で思い通りにことを進めてもらう代わりに、歴史問題を見逃しているように見られてしまうことだった。韓国メディアでは、そのような約束がなされているという推測があった。オバマ政権は、そのような印象を一掃した。こうした事情から、同盟国の決定に対して批判の声明を発表するという異例の事態となったのだ」

ピーター・エニス 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Peter Ennis

1987年から東洋経済の特約記者として、おもに日米関係、安全保障に関する記事を執筆。現在、ニューズレター「Dispatch Japan」を発行している

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