靖国参拝は日本の戦略的利益にとって無意味 ダニエル・スナイダー氏に聞く

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--安倍首相の靖国神社参拝で、中国との緊張関係が高まってしまった。日本の戦略パートナーである米国をも苛立たせてしまった。

「道徳的な問題はさておき、靖国神社参拝は日本の戦略的利益の観点から考えるとほとんど意味がない。そのことこそが、オバマ政権や米国の政治的指導者が反応していることなのだ。日本が安全保障同盟国として米国に保護してもらいたいのであれば、もちろん米国はそのつもりだが、それと引き換えに日本は周辺地域の緊張をできるだけ下げる努力をすべきなのだ。そして、戦争防止にとって重要な地域の安全システムを強化すべき。特に、日本と韓国の関係を良好なものにする必要がある。

残念ながら、今回の参拝で中国との緊張が高まった。そして同時に、韓国との間に有効な安全関係を維持することも一段と難しくなってしまった。米国政府は『おいおい、君たちは守ってもらいたいんだろう? でも君たちは地域の安定維持を難しくばかりしているね』と言っているのだ」

--米国の声明は十分に考え抜かれたものだったと考えますか。

「十分に考えて出されたものだと思う。表明に使われた言葉遣いが明瞭だったから。日本は不必要に地域の安全と安定を難しいものにした、ということをはっきりと言っている。その声明では日本に対し、歴史的な背景を含む重要な問題を解決するために韓国や中国と外交的に関わっていくことを勧めている」

--内閣の反応は基本的に、日本の戦没者に敬意を表するという安倍首相の意図を米国は理解していないというものです。

「この問題の動向を昔から知っている米国人の中に、そんな説明を受け入れたり信じたりする者はいない。首相の意図が戦没者に敬意を表すためのものであるなら、彼にはいくつかのやり方がある。ケリー国務長官とヘーゲル国防長官が昨年10月に来日し、日本の外交・安全保障担当者と2対2の対談を行った。その時に彼らは、彼らの意向で千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪れた。彼らは『これが米国に迷惑をかけずに戦没者に敬意を表する方法だ』というメッセージを伝えたのだ」

--この件は純粋な国際問題でしょうか。

「決してそんなことはない。日本国内ではかなりの政治問題で、保守派内でも意見が分かれている。また、日本の自由主義者同士で緊張を高める要因にもなっている。この問題に情熱を注ぎ、祖父を尊敬する安倍首相はこのことに間違いなく気付いていると思う。

 国立墓地をつくってこそ戦没者への敬意は生まれる

読売新聞の渡邉恒雄氏と朝日新聞の若宮啓文氏が数年前に靖国神社参拝に関する対談を行った。読売新聞と朝日新聞は意見が合わないことが多いが、この2人が日本の戦没者に対する正しい敬意の表し方について同じ意見を述べている。それは、本当に永続的な国立墓地を建設することだ。極東国際軍事裁判で平和を脅かした罪に問われた人々が靖国神社に祀られているからこそ、国立墓地の建設はとても重要です。千鳥ヶ淵はその役割を果たせるが、これとは別の純粋な国立墓地を建設するのもよいだろう。

これが現実になれば、日本や外国の指導者が日本の戦没者に対して敬意を表することができるのだ。この墓地訪問は、正当かつ立派な行為。日本の戦時中の指導者の正当性を論じることなく行える。国のために命を落とした人々に対する敬意と、戦略的に多大な災害を日本にもたらした責任で法的に有罪となった少数の人々に対する敬意を、なぜ一緒にする必要があるのか。そのように信じている安倍氏を、私はまったく理解できない。

日本政府はサンフランシスコ平和条約に署名した時に、極東軍事裁判の判決を受け入れた。安倍氏は、裁判の判決は合法ではないと信じているようだ。彼は、インドの判事が異議を唱えたことを賞賛している。サンフランシスコ平和条約は、われわれの戦後の安全保障同盟の基礎となるもの。極東裁判の判決が合法でないからこそ平和条約も合法ではないと安倍氏が思っているのであれば、彼はそれを口にすべきだ。

あの過去の時点で米国と日本は、両国の同盟に対して違う価値基準を見つけるべきだった。現在のところ、安倍首相は両方を望んでいる。彼は、日本の過去の戦争について自分の意見を述べたいと思っている。もちろん、彼にはその権利がある。しかし、安全保障同盟の行使を期待するなら、それはやってはいけない。なぜなら、日本の戦後の安全と外交政策は米国との安全保障同盟の上に成り立っているのだから」

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