交通事故を避ける技術はどれだけ進んでいるか 衝突被害軽減ブレーキは過信できない

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「事故を抑制する技術」

衝突被害軽減ブレーキ。この技術は他車や自転車、歩行者との衝突や接触可能性が高まった場合に、「①システムが警報ブザーやディスプレイ表示でドライバーに回避動作を促します」

それでも、こうしたシステムからの注意喚起になんらかの理由(聞き逃しなど)でドライバーが反応できず衝突や接触が避けられないとシステムが判断した場合には、「②最終的な段階として自律自動ブレーキを作動させ事故被害を軽減、状況によっては事故そのものを回避する」ことが可能です。

つまり、衝突被害軽減ブレーキで最も大切なことは①の段階でドライバーが回避動作をとることにあり、②の自律自動ブレーキはあくまでも最終段階で機能する技術で、日常運転の頼りにしてはならない、ということです。これは1991年当時、運輸省(現・国土交通省)が取り決めた「ASV(先進安全自動車)推進計画」に記され、現在に至るまで用いられている技術指針でもあります。

そして、そもそも衝突被害軽減ブレーキはドライバーによる回避動作を第1段階とするシステム構造であるため、警報ブザーやディスプレイ表示に反応したドライバーによる回避操作が望めないことや、他車や自転車、そして歩行者の「認識性能」と、車両が持つ「制御性能」に物理的な機能限界(後述する“事象A”)が存在します。

実際の事故発生シーンで考えてみます。衝突被害軽減ブレーキは車両による性能差があるものの、自車に正対、もしくはほぼ正対している車両や歩行者、自車の前を横切る歩行者や自転車であれば、かなりの確率でシステムは正しく機能し被害軽減/回避が望めます。このプロセスの詳細は独立行政法人である「自動車事故対策機構」が行っている「予防安全性能アセスメント」のサイトで動画を含め確認ができます。

しかし、それが右直事故となるとシステムが正しく反応できる衝突被害軽減ブレーキを搭載した車両が限られます。右直事故は直進する車両と右折を行う車両が衝突する事故形態です。これはどういうことでしょうか……。

右折事故における落とし穴

警察庁が発表した事故類型別死亡事故によると、右折時に車両同士で発生する死亡事故はここ10年間で若干の低下傾向(2008年度/289件 → 2018年度/179件)にありますが、依然として左折事故での死亡率よりも約3.3倍高いまま推移しています。

ここでの数字には交差点での右直事故が含まれています。状況的に直進車両の車速が高いことが多く、そうなると衝突時の運動エネルギーが高くなるため被害が甚大に及びます。

次にこの状況を実際の道路環境で考えます。例えば衝突被害軽減ブレーキ搭載車に乗り、微妙に左へとカーブしている信号機のある交差点で右折待ちをしているとします。このとき、対向車線では緩い右カーブを走行する車両が交差点に近づいています。……が、運転者からは対向する交差点内で右折待ちをしている車両(運転者から見ると左折する車両)に遮られ、この段階では交差点に近づく直進車両の存在に気づくことができません。

この状況は衝突被害軽減ブレーキのセンサーである光学式カメラにとっても厳しく、運転者の目視と同じく車両の陰に隠れた直進車両の認識は物理的にほぼ不可能です。衝突被害軽減ブレーキのセンサーにはミリ波レーダーを用いたシステムもあり、その中には遮っている車両下端と地面の隙間から対向車を検知する高度な技術を搭載した車両もありますが、いずれにしろ情報量が限られているため正しく認識するには技術的な難易度が高まります。

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