交通事故を避ける技術はどれだけ進んでいるか 衝突被害軽減ブレーキは過信できない

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ほどなくして運転者は、右折先の横断歩道やその前後に歩行者や進路上に自転車などがいないことを目視で確認したうえで右折を開始、すると突然、目の前にさきほどの直進車両が現れます……。

しかし、衝突被害軽減ブレーキのセンサーでは前述したとおり、衝突可能性の高い車両が突然現れたに等しく、仮に自律自動ブレーキが作動したとしても衝突を回避するまでには至らない場合が多いと推察できます。これが前述した“事象A”で示した一例です。

交差点対応を採用した「ボルボ」と「アウディ」

交差点に対応した衝突被害軽減ブレーキも存在します。その1つがボルボの「インターセクション・サポート(右折時対向車検知機能)」です。これは最新世代のボルボ各車(例/XC40やV60など)に装着される衝突被害軽減ブレーキで、交差点を右折する際に自車の車載センサー(光学式単眼カメラとミリ波レーダー一体型「ASDM」)が交差点を直進する対向車の動きを認識し、衝突の可能性が高まった際には衝突被害軽減ブレーキの警報ブザーなどとともに自律自動ブレーキを働かせます。

アウディにも交差点に対応した衝突被害軽減ブレーキが存在します。ミディアムクラス「A4」以上の車種が搭載する「ターンアシスト」機能です。ボルボと同じように、自車が右折する際にサポートを行う衝突被害軽減ブレーキです。自車が交差点を右折する際に対向直進車との衝突可能性が高まると警報ブザーでドライバーへ回避動作を促したり、状況によっては自律自動ブレーキを介入させたりします。

ボルボとアウディで例を示した交差点に対応した衝突被害軽減ブレーキは、いずれも正しく機能させるための技術的な難易度が高く、ボルボでは正しく機能する際の条件として、「接近車両のライトが点灯しているとより確実に作動する」としています。ゆえに現在、このロジックを搭載した衝突被害軽減ブレーキの搭載車両は限定的です。

また、実際の道路環境では前述したとおり、カーブの途中に交差点が設けられていることやさまざまな理由により物理的に対向車の存在が遮られてしまう状況も考えられます。よって過信はできませんが、物理的な機能の限界があることをドライバーが理解したうえで高度な運転支援技術として活用することには一定の効果が望めます。

この先は物理的な機能限界点を向上させる交通インフラとの連携によって、さらなる運転支援が期待できます。その1つが、「ITS Connect」による路車間通信システム(DSSS)を活用した「右折時注意喚起機能」です。

こうした交通インフラとの連携は、交通事故抑制の観点だけなく、近い将来に到来する自動運転社会の早期実現に向けても不可欠な要素です。日本における自動運転技術の旗振り役は、内閣府による「戦略的イノベーション創造プログラムSIP第2期/自動運転」が担当しています。

ここでは「自動運転を実用化し普及拡大していくことにより、交通事故の低減、交通渋滞の削減、交通制約者のモビリティの確保、物流・移動サービスのドライバー不足の改善・コスト低減等の社会的課題の解決に貢献し、すべての人が質の高い生活を送ることができる社会の実現を目指していく」(原文まま)として、超高齢社会となって久しい日本での、加齢と運転操作の関係や、自律自動運転技術との協調についてもデータ収集を行っています。

西村 直人 交通コメンテーター

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にしむら なおと / Naoto Nishimura

1972年1月東京都生まれ。WRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。(協)日本イラストレーション協会(JILLA)監事。★Facebook「交通コメンテーター西村直人の日々

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