実際のインフレ率が低下する局面でインフレ率の実感が高止まりしている理由として、人々の生活実感が悪化していることが挙げられる。
筆者らが2018年3月に発表した論文「構造方程式モデリングを用いた個人投資家のインフレ認識とインフレ予想の分析―インフレ予想の異質性バイアス―」(行動計量学、2018年3月号) では、個人投資家のインフレ予想に関して、独自のアンケート調査の結果を用いて分析した。そこでは、日本経済や家計の状態に対する「不安」が大きい個人ほど、現在のインフレ率の実感が高いことが示された。
生活実感が悪く、「不安」が大きいほど各種サービスや物の価格を高く感じるなどの錯覚を起こしやすく、インフレ率の実感の高止まりを引き起こしやすいと考えられる。これらの特徴が複合的に表れている結果として、 インフレ率の実感は適合的でなくなっている可能性が高い。
インフレ予想の引き上げに固執するリスク
前述した筆者らの論文では「家計の生活実感が悪化するとインフレ率の実感が高くなる(その結果としてインフレ予想も高くなる)」という分析結果が得られた。この結果を逆手に取れば、日銀はインフレ予想を引き上げるために家計の生活実感を悪化させればよいという考え方もできる。むろん、このようなメカニズムでインフレ率の実感やインフレ予想が上昇したとしても、前向きなインフレ率の上昇につながる可能性はない。むしろ経済を毀損するリスクがある。
リフレ派と呼ばれる人々の意見の中には、とにかくインフレ予想を引き上げるべきだというものも散見されるが、インフレ予想の変化の背景にまで踏み込んだ議論が必要である。
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