選手村マンション「晴海フラッグ」に渦巻く賛否 モデルルーム潜入!本当の価格とリスクは?

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小さい子どもを1人連れた30代の若い夫婦は「総じて期待以上だった」との感想。「いちばんの魅力は物件価格。このあたりの新築では安い、坪単価270万円前後の物件もけっこうあり、購入の本命度は高い」と打ち明ける。現在は豊洲の2LDKのマンションに住んでいるが、もう1人子どもを作ることを考えると手狭なため、住み替えを検討している。マイナス要素としては、最寄りの勝どき駅から徒歩20分かかることを挙げた。「私たちは共働きなので、この駅距離はきつい。BRT(バス高速輸送システム)が通るようだが、本当に輸送力として足りるのかどうか」。

新しくできる巨大な街は、最寄り駅からは徒歩20分。このデメリットに消費者はどう反応するか(4月23日、記者撮影)

駅からの距離を意に介さないという人もいる。1人で来ていた、背が高くいかにも外資系勤務といった風貌の20代後半男性は、「自分は自転車通勤するのでネックとは感じていない。今もこの近辺の自宅から会社に自転車通勤している」と説明する。それよりも、エネファーム(家庭用燃料電池)を全住戸に採用するなど、最先端技術をふんだんに採用している点に関心を持ったという。

しかし、駅からの距離は、物件の資産価値(再販価値)を左右する重要な要素である。著名マンションブログの「マンションマニア」管理人で、マンション購入相談にものる星直人氏は、晴海フラッグについて「資産価値?なにそれ?おいしいの?こんくらいの気持ちでないと」と、Twitter上で言及した。取材に対して星氏は、大暴落するほどの不安はないものの、駅から距離があるなどで将来の資産価値については、都心物件であっても楽観視できないという。

東京都中央区月島からモデルルームの見学に来た30代後半の夫婦もこう語った。「晴海フラッグは住戸数が非常に多いため、需給のバランスも安定しにくいだろう。将来の資産性には目をつぶって、新しく生まれる大きな街にずっと暮らし続けるぐらいの意志がないと厳しい」。

「資産価値を維持できるのか」に不安の声も

物件価格は割安だが、維持コストが高い難点も見逃せない。

最先端の設備や防犯システム、51の共用ルーム、豊かな植栽というメリットを享受する対価として、住民は平均して月4万円前後の維持費(管理費、修繕積立金など)を払う。晴海フラッグのポピュラーな部屋である85㎡3LDKでいえば、管理費で月2万5000円、修繕積立金で月1万1000円、加えてインターネット使用料やタウンマネジメント費などが月3000円かかってくる。

駅徒歩20分にもかかわらず、駐車場容量の少なさにも不満の声が挙がる。駐車場台数は1900台程度であり、分譲住戸数4145戸に対する駐車場台数の比率(駐車場設置率)は約45%。これを上回る利用者がいた場合は抽選になり、仮に漏れれば駐車場を使えない。

銀座の目と鼻の先に割安な物件が手に入るプラスの要素の反面、駅からの遠い距離と資産性の弱さ、維持費の高さなどマイナス要素もまた浮かび上がった。不動産市場の活況に陰りが見える中で、ますますシビアになった消費者は、世紀の出ものにどう反応するのか。未曾有の物件の真価はこれから明らかになる。

西澤 佑介 東洋経済 記者

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にしざわ ゆうすけ / Yusuke Nishizawa

1981年生まれ。2006年大阪大学大学院経済学研究科卒、東洋経済新報社入社。自動車、電機、商社、不動産などの業界担当記者、19年10月『会社四季報 業界地図』編集長、22年10月より『週刊東洋経済』副編集長

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