「空き家数」の増加にブレーキがかかった不可解 5年前比で空き家率は0.1%増にとどまった

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住宅ストックの正確な把握が欠かせないのが、固定資産税を徴収する地方自治体だ。建築工事届や不動産登記が変更された情報を把握すると課税評価して固定資産税を徴収する手続きを進める。これによって住宅ストックの動向を正確に把握できるはずだが、各自治体では定期的に空中写真を撮影する調査を実施している。

2018年2月に国土地理院が公表した「固定資産税調査用空中写真撮影の実態」調査によると、空中写真撮影をした市町村は73.2%、うち住宅が多く建ち並ぶ市では87.3%が実施していた。撮影周期は、毎年実施が10.4%、3年ごとが44.6%だった。

自治体が頻繁に空中写真を撮影するのは、建築工事届を出さずに建てた建物や、逆に除却届を出さずに取り壊した建物を見つけるためだ。地価の高い都市部で200平方メートルの土地に建つ住宅を除却すれば、固定資産税が一気に6倍になる。こうした課税漏れを防ぐために空中写真を撮影し、課税台帳の地図と照合作業が必要になっている。

空き家数の増加になぜブレーキ?

住宅滅失戸数の統計データには問題があり、統計データより多くの住宅が除却されている可能性はある。空き家を中心に古い住宅が大量に取り壊されていたとすれば、空き家率が0.1ポイントしか上昇しなかった理由を説明できるかもしれない。もし、消えた「232万戸」がすべて除却されていたと仮定すれば、届出分56万戸を加えた288万戸、年平均58万戸が滅失していた計算だ。

しかし、いくら何でも統計データの5倍以上、年58万戸もの住宅が取り壊されたとは考えにくい。新築3戸に対して滅失2戸のハイペースで、あちらこちらで解体工事が頻繁に行われていたという実感はまったくない。戸建て住宅の解体費は少なくとも1戸150万円はかかるので、年58万戸なら住宅解体分だけで完工高は9000億円近くとなり、建設工事施工統計とも大きく食い違う。

前回2013年の住宅・土地統計調査の結果をみると、総住宅戸数は6063万戸で、5年前に比べて305万戸の増加だった。同じ5年間の住宅着工戸数は430万戸で、住宅滅失戸数61万戸を引くと増加分は369万戸。全解工連の幹部が言うように、滅失戸数が統計データの2倍程度なら、2つの統計数字の違いも説明がつく。それに比べて、2018年の結果は国交省の統計との乖離があまりに大きい。

もし、今回の調査で空き家数が1000万戸を突破していたら、景気対策の柱でもある新築住宅を「つくりすぎ!」との声が一段と高まっていただろう。本当に総務省の住宅・土地統計調査どおりに空き家数の上昇にブレーキがかかったのか。政府は、その理由をきちんと説明する必要がある。

千葉 利宏 ジャーナリスト

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ちば・としひろ / Toshihiro Chiba

1958年北海道札幌市生まれ。新聞社を経て2001年からフリー。日本不動産ジャーナリスト会議代表幹事。著書に『実家のたたみ方』(翔泳社)など。

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