日本のテレビ局に圧倒的に足りない経営改革 ドワンゴ夏野剛社長「すごくもったいない」

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ネットが主流となった世の中で、日本のテレビ局は「手抜き」の経営をしているという。テレビ局の問題点を夏野剛氏が説く(写真:TW-Creative/iStock)
シリーズ放送改革第6回〈識者に聞く〉は、今年2月、ドワンゴの新社長に就任したばかりの夏野剛氏に登場いただいた。NTTドコモでiモードサービスの立ち上げに携わり、独立後はトップ企業各社の経営に参画する傍ら、テレビではコメンテーターも務める。『誰がテレビを殺すのか』という著書もある夏野氏に、今のテレビの問題点を率直に語ってもらった。

コンテンツの流し方こそ経営の知恵の絞りどころ

テレビ局はすごくもったいないことになっています。制作集団としてのテレビ局の経営と、放送のプラットフォーマーとしてのテレビ局の経営を別にしないと大変なことになると思います。会社としては一緒でも経営の観点は全然違うという認識が、日本のテレビ局にまったくないことが問題です。

『GALAC』2019年6月号の特集は「変わる!スポーツ中継」。本記事は同特集からの転載です(上の雑誌表紙画像をクリックするとブックウォーカーのページにジャンプします)

アメリカのテレビ局は、一度コンテンツとプラットフォームを分離し、その後また一緒にしましたが、制作者とプラットフォーマーである放送側の人間のマインドセットは、全然違っています。

制作側の人間は、プラットフォームに縛られずに作るべきだし、プラットフォーム側の人間は、今の地上波、衛星、パッケージなどの出し方をネットに広げていくのが当然の戦略なのに、この20年間、本気で手をつけていません。それは経営の問題です。コンテンツをどう流すかが、プラットフォーム経営者の知恵の絞りどころなのに、放送だけを前提としているのは経営の放棄ですよ。もったいない!

一方で、日本のドラマは面白いし、クオリティも非常に高い。ネットより番組コストははるかに高いけれど、制作効率が悪いのではなくクオリティのいいものを作っているためです。4K・8Kが進むと必要になる高精細に堪えられる照明や美術はもちろん、音声や編集も日本の放送局は世界トップクラスです。演出力も含め、こうした制作力を放送のためだけに使っているのは本当にもったいない。

制作力があるのは放送局でなく制作会社だ、などと穿ったことを言う人もいますが、お金を出すというプロデュース機能を含めた全体の制作力では、日本のテレビ局は絶大な力を持っています。これを解き放つような放送法の改革や放送事業者自身の経営改革はいち早くやるべきです。

――なぜ経営に問題が生じるのでしょうか?

テレビ局の経営に人材の多様性が圧倒的に欠けているためです。今の経営層は、新卒で就職した生え抜きなので、インターネットのことなど全然知らないまま来てしまっています。

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