日本のテレビ局に圧倒的に足りない経営改革 ドワンゴ夏野剛社長「すごくもったいない」
むしろ放送では、事業者の新陳代謝ができるかどうかがカギです。経営が難しい放送局はプレーヤーの交代が起きてもよいとなった瞬間に、非常に面白くなります。キー局と準キー局は安泰ですが、地方局には苦しいところもあるので、地方局から改革が起きる可能性は大きいと思っています。だから規制改革推進会議でも、もう少し経営の整理統合が自由に行えるようにしたほうがいいんじゃないかと申し上げました。
地方局の将来も経営者によります。地方局の経営者というのはキー局からの天下りなど、その局の生え抜きでない人が多いですよね。たまたま面白い人が来ると大胆なことを言ったりしますが、残念ながら財政的な体力がなくて実現に至らない。だからもう少しドラスティックな経営体制の変更、オーナーシップの変更があってもいい時期ではないでしょうか。
――第3次答申で、テレビ各局の共通プラットフォームを構築すべきとされましたが。
僕はあまり賛成ではないです。各局が集まってやるといった瞬間に、イノベーションは起きなくなりますから。中途半端に統一すると、横並びで少しコンテンツを出しただけで満足してしまう経営者が出てくるのが嫌ですね。やるのだったら、行政側が徹底的に全番組を出しなさいと。そうすると難視聴対策にもなるし、いいことずくめです。だから全局が全番組を出すという法律ができるのであれば、あり!です。でも、そこまで強制できないなら、各局の自由にしておいたほうがまだマシです。
――夏野さんがもしテレビ局の経営者になったとしたら、まず何から手を付けますか?
もしやるとすれば、全番組のマルチ配信をやります。例えば地上波のドラマは11話前後ですが、撮るのは24話分にする。地上波での1話をネットでは2話に増やし、サイドストーリーを加えて同時期にネットで配信する。地上波を見た人も、この配信版は見たいし、配信版を見た人は地上波ではどこがカットされているかを必ず見たくなる。地上波では1話43分くらいが限界ですが、ネットでは60分が24話でもいい。俳優もスタッフも一緒で、撮影期間は1.5倍。ギャラも同様に増えますが、収入は2倍になると思います。バラエティや情報番組も、すごく長く撮ったのを短く編集しているのですから、長尺版をネットで配信する。パッケージも24話。1回撮ると2度、3度おいしいというワンソース・マルチユースを徹底しますね。
6年後の2025年に大きな変化が起きる!?
6年後の2025年には、経営層に若い頃からネットを体験している世代が入ってきます。ちょうど僕の世代(54歳)がインターネット黎明期です。楽天の三木谷浩史(会長兼社長)やエイベックスの松浦勝人(会長)などが同期。IT系の経営者が多いこのゾーンは、5〜6年後には間違いなく、大企業やテレビ局の経営層になります。この世代は、周りにネットで金持ちになった人たちがいるので、ちょっとアメリカ的で、インターネットなんか当たり前ということに必ずなります。
問題は、芸能事務所の経営者はもっと上の世代で、改革しようとしてもそれまでの秩序を保ちたい保守的な人は必ず出てくるので、今の仕組みのままではすぐに全面的にはいかないことです。今回の放送法改正でNHKの放送同時配信が可能になったのは、すごく大きなプッシュになります。こうした政府のプッシュがある状況で5〜6年経てば、やっと環境が整い、全部をやれる状態になっていると思います。
しかしその頃には人口が明確に減り始めています。テレビ局のターゲットである団塊の世代も、後期高齢者になり人口構成的に減り始める。すると全世代向けに発信するという、もともとテレビが持っている最大のよさを生かす形を作らなければなりません。だから今後6年以内に各テレビ局が、新たに進むべき道を見つけて走り始めていないと非常に怖い。それができない局は、地方局だろうがキー局だろうが、おそらく淘汰されると思います。(談)
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