消費増税策の是非を議論しない日本はおかしい 「MMT導入論」で盛り上がるアメリカとの落差

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このため、2%インフレを命題としている中央銀行が、インフレ安定に一義的な責任を持ち、そして総需要とインフレの安定化には金融政策が中心的な役割を果たす、という体制が望ましいと筆者は考えている。

インフレ目標実現を使命とする中央銀行は、政治に大きく左右されずに機動的に金融政策を行うことができるため、インフレの行き過ぎを抑制することが可能である。また、アメリカは、日本やユーロ圏などと比べればインフレ安定に成功しているため、MMT論者が唱えるほど極めて大規模な財政政策が実現する可能性は高くないだろう。

日本の緊縮政策の是非を問う議論は貧弱なまま

先に述べた通り、アメリカでMMTに批判的な経済学者は少なくない。だが、財政政策によってアメリカの経済成長を押し上げることに賛意を示す意見は非常に多い。成長停滞、低インフレが長期化への対応策として経済政策をより積極的に発動するにあたり、MMTのロジックに依存しなくても、標準的な経済理論によって、拡張的な財政政策の有効性は説明できるということだろう。

一方で、日本のメディアなどでは、MMTを「異端の理論」として、ポピュリズムの蔓延がこうした「危うい政策を招いている」など表層的な評価が散見される。これは、財政健全化という、ある種の教条にとらわれた偏った見方であると筆者は考えている。

むしろ、アメリカでは、MMTを含めて拡張的な財政政策に関して幅広く議論されていると評価することができるのではないか。

それに比べると、日本では2%インフレ実現に程遠い経済状況で、消費増税など緊縮的な財政政策を強める政策の是非が、しっかり検討されているようには見えない。この意味で、日本の財政政策に関する議論は、残念ながらかなり貧弱なままであるように筆者には見える。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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