またMMTの理論は、民主党の大統領候補となっている一部有力政治家の政策立案に影響を及ぼしている。2020年の大統領選挙の展開は現時点では全くわからないが、2、3年後のアメリカ経済や政策動向に影響する可能性がある。
MMTは異端の経済理論として、一見突然現れたようにみえる。ただ、1990年代から、この理論は一部経済学者から提唱されていた。政策手段として財政政策を重視している点はケインズ経済学がルーツとなっており、またポストケインズの重鎮であるハイマン・ミンスキーなどが発展させた理論から、MMTは構築されてきたという経緯がある。
MMTを掲げる経済学者は、「アメリカなどは財政赤字に制御されない財政政策をとるべきだ」などと唱えている。これは弊害が大きい「トンデモナイ政策」のように見える。
一方、政府と中央銀行を一体として統合政府が政策を行う意味で、MMTの理論は金融・財政政策の一体的な運営、または「ヘリコプターマネー政策」と親和性がある。
MMT理論は積極的に評価して良いのか?
2008年のリーマンショック以降、主要先進国はヘリコプターマネーに近い政策に足を踏み入れていたが、インフレ2%の安定化を実現するまで、総需要刺激政策を徹底する経済政策が望ましく、筆者はMMTの理論には評価できる点があると考えている。
実際に、欧州や日本と比べれば、アメリカではひと足はやく成長率が高まった。だが、総需要やインフレ率の伸びが鈍い状況はまだ続いている。低インフレの長期化の処方箋として、積極的な財政政策が必要という考えは、MMTに対して批判的な多くの経済学者も同意している。
ただMMT論者が唱える財政政策には、1 景気変動に機動的に発動することが難しい、2 政治が暴走した時に歯止めがかからない、また、3金融緩和が不十分な中で拡張財政が発動されると金利上昇が起こりうる、など問題がある。
具体的には、米民主党の大統領候補者が、野心的な社会保障やインフラ投資などを掲げ、これらの財源には「無尽蔵な国債発行」があるとしているが、景気が過熱しインフレになった時に、政治的に拡張財政をやめることができないリスクがある。
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