世界経済を大転換させる「3つの構造変化」 玉木林太郎・元財務官に世界経済情勢を聞く
――アメリカが警戒感をむき出しにするように、「5G」や人工知能など中国のテクノロジーの急発展ぶりが脅威となっています。
今の構造変化の中では、新興国や途上国には「カエル跳び」のように、一気に先進国を飛び越えて新しい経済成長モデルへ先回りする余地がある。中国はまさにそれを実践しようとしている。
気候変動に関しても、日本ではPM2.5や大気・水質汚染の状況から中国を「環境後進国」のイメージで見る向きは多いが、中国は今、エネルギーを中心とした気候変動への対応と環境対応を一度にやろうとしている。「中国はまだ日本の昭和40年代と同じ」などと考えないほうがいい。
英国とEUはもともと「家庭内離婚」のようなもの
――大きな構造変化の中で日本にいま必要なことは何でしょうか。
ミレニアム世代のような若い人たちの間からもっとイノベーションが出てくるようにならないといけない。人口減少が言われるが、人口が増えていても旧態依然としたビジネスモデルを続けていてはだめだ。革新的なスタートアップ企業を温かく迎えるような社会にする必要があるだろう。
一方で、ゾンビ企業には早く退場してもらう。退場すべき企業が金融緩和や公的信用保証などの財政支援で命をつないでいると、新しい雇用もイノベーションも生まれない。
――ところで、欧州ではブレグジット(イギリスのEU離脱)が迷走しています。今後を含め、どう見ていますか。
イギリスは1973年にEC(EUの前身の欧州共同体)に加盟したが、共通通貨ユーロにもシェンゲン協定(域内出入国審査の廃止)にも入らず、経済面での損得勘定のみで統合に参画しているような状況にあった。EUが経済統合から政治統合へと向かう中、政策決定の主権をEUに譲る覚悟はなく、欧州大陸とどう付き合っていくのかについてのコンセンサスもないまま走ってきた。そのツケが、「はずみ」で実施された国民投票後の迷走に表れている。
今後の行方は誰にもわからない。内政のドタバタ劇として心配しないで見ているほうがいい。だいたい、大陸側ではさほど大きな事件とは見ていない。イギリスとはこれまでも「家庭内離婚」のようなものだったので、出ていくのは仕方がないとの見方だ。移民や気候変動などほかに重要な問題がある中、これ以上、この問題に関与したくないとのムードが強い。
ホンダや日産自動車がブレグジットの迷走を主因として移転や生産計画撤回を決めたという見方は間違っている。ディーゼル車やガソリン車のマーケットが消えつつある中、ブレグジットがあろうとなかろうと、自動車会社は陳腐化したビジネスモデルの負のレガシーである海外工場の見直しを避けて通れない。
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