「チーズはどこへ消えた?」続編が描く迷路の物語 迷路に残ったヘムがそのあとどうなったのか

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ヘムがイスから立ち上がってまた歩きだした途端、床の何かにつまずいた。かがんでそれを拾いあげた。ほこりを払うと何なのかわかった。

それは古いノミだった。

自分がこのノミをつかみ、ホーがハンマーで叩いてチーズ・ステーションCの壁に大穴を開け、新しいチーズを探そうとした日のことを思い出した。今も部屋の壁にこだまするハンマーとノミの音が聞こえるようだ。

ビシッ! ビシッ! ビシッ!

ヘムは床を探しまわり、ハンマーを見つけるとほこりを払った。ホーと2人でチーズ探しに出かけたのはずいぶん前のことになると思った。

ホーが恋しかった。ヘムはくよくよ考えはじめた。いまも彼はここにチーズが現れるのではないか、ホーが戻ってくるのではないかと思っていた。

チーズを探さなければならない

しかし、チーズもなく、ホーもいない。

何かしなければならなかった。家にこもって待っているだけでは駄目だ。

迷路に出ていって、チーズを探さなければならない。

『迷路の外には何がある?』 ――『チーズはどこへ消えた?』その後の物語 (扶桑社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

ヘムは辺りをかき回し、ランニングシューズを見つけて履いた。ホーと2人でチーズを探しに出かけたときと同じように。靴ひもを結びながら、ヘムは今の事態についてわかっている事実を考えてみた。

どうしても新しいチーズを見つけなければならない。さもなければ死んでしまう。

また、迷路は危険なところで、暗がりや袋小路があちこちにある。うんと注意しなければならない。

そして、もしそれをやりとげ、チーズを見つけて生き延びたいなら、それはひとえに自分にかかっている。自力でやらなければならないのだ。

ヘムはこれらをメモ書きしてポケットに入れた。忘れないようにと。

わかっている事実
① 新しいチーズを見つけなければならない。
 さもなければ死ぬ。
② 迷路は危険なところで、暗がりや袋小路があちこちにある。
③ すべては僕次第だ。自分で何とかしなければならない。

事実を掌握して、ヘムはほっとした。少なくとも目下の状況がわかったのだ。

彼はハンマーとノミに目をやった。これからの旅で、迷路の奥を探索するのに役立つだろう。

道具を取って袋に入れ、肩にかけた。

新たな覚悟と強力なハンマーとノミで身を固め、ヘムは迷路へと踏み出した。

スペンサー・ジョンソン 心理学者、医学博士
Spencer Johnson

多くの企業やシンクタンクに参加し、ハーバード・ビジネス・スクールの名誉会員に列せられている、アメリカ・ビジネス界のカリスマ的存在。経営学の古典的名著でありロングセラーの『1分間マネジャー』(共著、ダイヤモンド社刊)をはじめ、『1分間意思決定』(ダイヤモンド社刊)、『プレゼント』(扶桑社刊)など多数の著書を発表している。心理学者であり、心臓のペースメーカーの開発にたずさわった医学博士でもある。著書のなかでも、寓話に託して、変化にいかに対応するべきかを語った『チーズはどこへ消えた?』(扶桑社刊)は、日本でも400万部を超える爆発的なヒットとなった。『チーズはどこへ消えた?』はアメリカでの刊行(1998年)当初から、IBM、アップルコンピュータ、GM、メルセデス・ベンツなど、世界を代表する企業や官公庁で研修のテキストに採用された。日本でも、ビジネスマンのみならず、働く女性たちや主婦層、小学生から高齢者まで、広範な読者に受け入れられ、大きな反響を呼んだ。その後、『頂きはどこにある?』(2009年/扶桑社刊)を刊行。2017年、78歳で逝去。『迷路の外には何がある?』(扶桑社刊)が遺作となる。

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