「四角いクルマ」は、なぜ日本で大人気なのか 軽ハイトワゴンやミニバンが人気を占める

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そして、MINIは四角い姿の代表格だろう。国としては平野が大きい農業国のイギリスでも、ロンドンは20世紀初頭から世界で最も人口の多い都市であり、人々が密集した生活の経験がある。すべてではないにしても、日本人の生活感に通じる側面がイギリス庶民にはあるのではないか。

小さくても高性能という発想は、ソニーがポータブルラジオを売り出した当時から日本人の得意分野といえる。顧客も、場所をとらず、それでいて高機能で多機能商品を好む傾向は、今日も変わらない。クルマの性能面でも、日本は先に述べた低い速度制限によって、形が流線形のような丸みを帯びる必要が基本的にはない。

空気抵抗は、速度の2乗に比例して大きくなる。時速100kmを超えると明らかに抵抗が大きくなると実感できる。したがって、高速道路の制限速度が時速100kmを超える欧州では、空気抵抗はクルマの外観を造形するうえで無視しえない。

空気抵抗は、今日では燃費性能に影響を及ぼすのはもちろん、ドアミラーなど出っ張った部分から発する風切り音にも影響が及び、快適性を悪化させる。したがって、四角い形のクルマより丸みを帯びたクルマのほうが、高速での性能向上に役立つのである。MINIでさえ、ドイツのBMWが開発することになってからは、伝統的姿の印象を残しながら巧妙に空気抵抗を減らす設計がなされている。

クルマの価値観は土地柄で異なる

一方、日本は、日常的には時速40~60kmの範囲であり、燃費にも風切り音にもあまり影響が及ばない。それより、アクセルペダルの踏み込み方が燃費を左右しかねないほどだ。したがって四角いクルマでも、性能上あまり大きな問題を実感しにくいといえる。

では、日本と同じ速度域で走るアメリカは、どうなのであろう。ミニバンやSUV(スポーツ多目的車)は、四角いクルマが多い。また高級車も、キャデラックやリンカーンなどは、比較的四角い形の傾向ではないだろうか。

速度域の話と別に、アメリカの自然は広大で、また有り余る土地を利用して道路の幅も広い。そうした広い視野の中で存在感があり、立派に見えるのは、やはり四角を基本とした外観ではないだろうか。たとえ丸みを帯びた姿であっても、抑揚が強くかなり大胆な造形がアメリカでは用いられ、日本ではとても好まれないであろう格好も、広い視野や、大自然の中では、それなりに調和のとれた姿に見える場合がある。

単に機能や実用性だけでなく、人の目にどう映るかは、視野の広がり加減によって、同じ人間でも感じ方は変わる。

グローバルカーという言葉がある。だが、実はそうしたクルマは必ずしも世界で売れてはいないのではないかと考える。クルマの価値観は、土地柄によって要求が違っているからだ。基本機能や部品についてはグローバルであっても、商品価値はローカルであるべきではないか。四角いクルマは、そうした日本のローカルな商品性を表しているといえる。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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