「ロジック完璧」でも企画が通らない人の盲点 世界の有力コンサルタントが教える「腹落ち」
私たちにとっては残念な結果に終わったわけだが、この経験は私にとって非常によい経験となった。この経験を通じて、収集した情報を論理的に分析し、整合性のとれたロジックフローを作っただけでは相手の気持ちは動かせないことを学んだからだ。
会社は絶対に買収されたくない、M&A以外の提案をしてほしいと思っている経営者に対して「グローバル大手の傘下に入る」というストレートな提案をしてもなかなか受け入れてもらえないのは当然だろう。
ロジックフローが正しいからといって、提案を受け入れてもらえるとはかぎらない。
例えば医者から「思いきって外科手術を受けますか」と聞かれたとき、すぐに了承できる人は少ない。手術をして悪い部分をすべて切除したほうがいいということはわかっていても、薬で治るものなら投薬治療を選びたいと考えることもある。
ビジネスもまったく同じなのだ。
大胆なリストラを行ったほうがよいと頭ではわかっていても、実行できる企業は少ない。その結果、中途半端なリストラ策を繰り返すことになり、じわじわと体力が低下していく。そして、にっちもさっちもいかなくなり、結局、自力で再建できないところまで追い込まれる。そうした事例から学んだことは、人は心の底から納得しないと、思い切った意思決定はできないということだった。
私の在籍していたボストン・コンサルティング・グループ(BCG)では、心の底から納得することを「腹落ち」と呼ぶ。組織も結局個人の集合体であるから、個人、とりわけ経営者やリーダー、キーパーソンが腹落ちしない案件はうまくいかないということになる。
では、どうすれば、業界4位だったそのメーカーの経営者を決断させることができたのだろうか。
痛みを伴う提案にはストーリーが必要
人の心を動かすような提案や説得をするためのカギは、左脳(ロジック)で考えたことに右脳で肉づけすることによって、相手の気持ちに入り込む、あるいは寄り添うことだ。英語でこれをエンパシー(Empathy)、日本語では感情移入と呼ぶ。相手の心の中を覗き込み、そこに入り込むことが「腹落ち」の第一歩だ。
人間というのは、ロジックフローがどんなに正しくても、自分に痛みを伴う提案はなかなか受け入れられない。相手の気持ちを動かし、そうした痛みを伴う提案を受け入れてもらうためにはストーリー(物語)が必要となる。
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