グローバル・シティ ニューヨーク・ロンドン・東京から世界を読む サスキア・サッセン著/伊豫谷登士翁監訳・大井由紀+高橋華生子訳 ~ニューヨーク、ロンドンと同じ道をたどらない東京
1991年に初版が出版され話題を呼んだ大著の、10年を経てほぼ全面改稿された第2版である。著者の主張は明快で、世界中に大都市は数々あるが、ニューヨーク、ロンドン、東京のみがグローバル・シティの名に値するというものだ。
先進国経済が脱工業化を進めるにつれて、金融業の経済全体に占める比重が高まる。それとともに、著者が生産者サービスと呼ぶ分野が成長する。生産者サービスとは、日本では法人向けサービスと定義される、一般消費者向けではなく企業の本社機能の一部を外注で効率化するためのさまざまなサービスをさす。たとえば、広告代理店、法律事務所、公認会計士事務所といった分野だ。
著者の主張の独自性は、この生産者サービスの巨大集積地が、地球上でたった3カ所に絞りこまれた理由をめぐって発揮される。大企業本社機能の特定の大都市への集中ではなく、生産者サービスのさまざまな分野に属する企業群が、ほかの分野に属する生産者サービスが多様かつ広汎に存在しているほど自社の仕事も効率が上がることに、世界全体を通じた三極集中の原因を求めたのだ。
東京やロンドンで仕事をしている人間にはそうした実感はないが、大企業本社機能のニューヨーク大都市圏から他地域への移転は数十年間続いているトレンドである。そうしたトレンドの中でも、生産者サービス機能のニューヨークへの集中はほとんど停滞もなく進んでいるところを見れば、この見解は卓見だったと言えよう。
そして、著者はこの金融業優位で生産者サービス業の成長が著しい現代先進国経済は、不可避的に貧富の格差が拡大する社会だと主張する。金融業においても生産者サービス業においても、一握りの華やかなスタープレーヤーが巨額の報酬を稼ぐ一方で、膨大な人数の下積みの人たちの給与水準は、たとえば大規模製造業の工場労働者の給与水準より低いことが克明な統計資料によって立証されている。
惜しむらくは、少なくとも第2版を読むかぎり、著者はこの大著を名著にするチャンスを逃していることだ。東京圏の地域経済は「拡工業化」ないし「超工業化」と呼ぶべきであって、ロンドンやニューヨークのように製造業が衰退する「脱工業化」ではない。そして、東京圏および日本全体の貧富の格差拡大も小幅にとどまっている。
世界的な金融恐慌の勃発を受けて、著者が第3版をどう書き変えるかに注目したい。おそらく、ニューヨークやロンドンと同じ道をたどらなかった東京に対する評価を高めるのではないだろうか。
Saskia sassen
コロンビア大学(社会学)教授。オランダ生まれ。ブエノスアイレス国立大学、イタリア・ローマ大学卒業。米国ノートルダム大学で社会学修士・同博士・経済学博士号を取得。コロンビア大学(都市計画・建築)、シカゴ大学(社会学)教授を経て現職。
筑摩書房 5775円 477ページ
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