高学歴社会が生み出す韓国「N放世代」の不幸 政権転覆の巨大なエネルギーを生みかねない

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問題はまだ続く。希望どおりに就職できなかった若者は安定的な職業に就けず、収入は不安定になる。その結果、結婚は困難になる。それが晩婚、晩産を通り越して、高い未婚率につながっている。またソウル首都圏に人口が集中したため、マンションなどの住宅価格や賃貸価格が高騰した。これも若者にとっては大きな負担となる。

せっかく、大学を卒業したにもかかわらず就職できない、結婚もままならない、せっかく就職先を見つけても住宅費が高すぎる。若者にとってこの上ないほど厳しい環境だ。さらに、厳しい受験競争を経験してきた彼らは、自分たちの親が多額の教育費を費やしてきたことを知っている。自分たちも同じことをするのかと思うと気が重くなる。

「高学歴社会」が、今度は若者の結婚や出産にとって重荷になっているのだ。その結果が合計特殊出生率0.98という数字に表れた。

実際、韓国統計庁が公表する人口や結婚などに関する統計はすべてが負の方向を示しており、2067年には65歳以上の人口が生産年齢人口(15~64歳)より多くなると推計している。数字のうえでは、日本より深刻な少子高齢化社会が到来する。

将来展望描けぬ「三放」「五放」世代

韓国には世代ごとに人々を分ける表現がある。文在寅政権の中枢を担っているのが「386世代」と言われる人たちだ。この言葉が登場した1990年に30代で、1980年代に学生時代を過ごし、1960年代に生まれた人たちという意味で、学生時代に民主化闘争の先頭に立っていた世代だ。韓国経済が順調に成長していたころに大学を卒業したため、就職にも苦労しなかった恵まれた世代ともいわれている。

これに対し最近、韓国のマスコミにしばしば登場するのが「N放世代」という表現だ。「N」には数字が入り、「三放世代」は恋愛や結婚、出産をあきらめた世代を、また「五放世代」はさらに家やキャリアも放棄した世代を意味している。いずれも今の若者世代を表現しており、不安定で将来の展望を描けない状況を示している。

「386世代」が1980年代後半、全国各地で民主化闘争を展開し目標を達成したのは、朴正煕、全斗煥と長く続いた軍事政権下での人権弾圧などに対する不満と批判のエネルギーが蓄積され、それが爆発したからだった。それから30年たった現在、若い人たちが政治や社会に対する不満や批判のエネルギーをため込んでいることは間違いないだろう。

韓国では、朴槿恵・前大統領を退陣に追い込んだ2016年の「ろうそく革命」に示されたように、国民がデモなど直接的行動で大統領や政府に政治的要求を突きつけ、それが政治状況を大きく転換してしまうことが多い。このまま「N放世代」が増え続けると、今はまだおとなしい彼らがやがて結集して、巨大な政治的エネルギーを噴出する日が来るかもしれない。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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