「日本一愛される鉄道」が直面する10年後の運命 JR東が切り離した路線を引き継いだ三陸鉄道

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とはいえ、三陸鉄道の経営の見通しは、決して明るいものではない。三陸鉄道は1984年の開業から10年間は経常黒字が続くなど、出足は順調だった。しかし、利用客数は開業初年度の268万人が最高で、その後はじわじわと減り続け、震災前の2009年度は97万人と半分以下になってしまった。人口減少に加え、沿線の道路が整備されたことで沿線住民の多くが自動車利用に転じたことが拍車をかけた。

震災後は、2014年度、2015年度こそあまちゃんブームや南北リアス線の開通で全国からファンが押し寄せ、利用客数が回復。自治体の支援もあり当期利益は黒字化した。だが、ブームがひと段落した2016年度は再び最終赤字に転落した。輸送実績は51万人に減った。

2019年度は宮古―釜石間の開業効果に加え、秋にラグビーワールドカップが鵜住居で2試合開催されることから観光客の増加は確実だ。また、国は10年間にわたる三陸鉄道の鉄道事業再構築スキームを策定した。この間は沿線自治体が鉄道施設や車両の維持管理費用を負担することで、収支の均衡を図るという。

活気を取り戻せるか

しかし、その先は不透明だ。国立社会保障・人口問題研究所の予測によれば、2030年における沿線10市町村の人口は2015年から21%減少する。全国平均の6%減、岩手県全体の14%減を大きく上回るスピードで人口が減っていくという厳しい予測だ。2045年には2015年比で42%も減少する。肝心な沿線人口が半減してしまっては、ジリ貧になるのは目に見えている。

宮古―釜石間の運営を引き継ぎ走り出した三陸鉄道。一体運営のメリットを生かして活気を取り戻せるか(記者撮影)

今から30年以上前の三陸鉄道の発足に際し、地元では南北リアス線に宮古―釜石間を含めた一体運営を希望していた。しかし、民営化直後のJR東日本は、宮古―釜石間は採算が見込めるとして、三陸鉄道への移管を拒んだ。当時の宮古―釜石間は、それだけ人口が集積していたエリアだった。しかし、現在の宮古―釜石間は、JR東日本が多額の資金を負担してでも切り離したいほど、採算が見込めない路線になってしまった。

地元住民は負担の少ないBRTでなく、あくまでも鉄道による復旧を選択した。JR東日本が経営から切り離した路線は、三陸鉄道によって活気を取り戻すことができるのか。久慈から盛まで一体運営できるのは大きな強みだ。今年3月から秋にかけ利用増が狙える地域に3駅を新設する。こうした機動的な展開も小さな組織ならではできることだ。

しかし、これだけでは経営改善にはとても足りない。宮古―釜石間が移管されてよかったと思えるようになるには、今後も大小さまざまな施策を絶え間なく打ち出していく必要がある。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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