「日本一愛される鉄道」が直面する10年後の運命 JR東が切り離した路線を引き継いだ三陸鉄道

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国も三陸鉄道の全線開通を全面的に支援した。JR東日本と違い、三陸鉄道にはカネがない。自治体にもカネがない。資金の面倒は国がみた。国の予算がつく前、国土交通大臣が現地視察に訪れた際、望月氏は大臣が「心配するな」と耳元でささやいたのをはっきりと覚えている。

望月氏は山田線の三陸鉄道への経営移管への道筋を付け、3期6年の任期をまっとうして、2016年に三陸鉄道の社長職を退いた。山田線の移管を見届けるまで三陸鉄道に残りたいという気持ちもなかったわけではない。だが、「さらに2期4年務めるのはさすがに無理。今がちょうどいい区切りです」と当時、望月社長は話していた。この日の望月氏は満面の笑顔を浮かべていたが、肩の荷が下りてほっとしたようにも見えた。

三陸鉄道の中村社長(右)と、記念式典に特別ゲストとして登場した女優ののんさん(記者撮影)

望月氏から三陸鉄道の経営を託され社長に就任したのは前県復興局長の中村一郎氏だ。沿岸広域振興局長を務めていたとき震災に遭遇し、最前線で震災対応にあたった。政策地域部長時代には山田線の復旧に向けJR東日本との交渉に当たった。地域に寄り添ってきた中村氏が、今度は地元の交通の足を支える。

中村社長は、「地元はもとより全国のみなさんに乗っていただけるよう、社員一同でがんばる」と話す。域外からの集客については、JR東日本が支援体制を取っているのは追い風だ。

JRも今後の支援を約束

会場にはJR東日本の深澤祐二社長の姿もあった。震災後は副社長として望月氏らと山田線移管に向けた交渉を続けていた。深澤社長はこう話す。「たくさんの橋、線路、駅が流されたがレールを張り替えしっかりと復旧し、無事移管できた。これで終わりというわけではなく、今後もしっかりと支援させていただく」。

陸中山田駅に到着した記念列車(記者撮影)

JR東日本は多くの社員を三陸鉄道に出向させているほか、沿線の観光支援に向けたキャンペーンの実施も約束している。4~6月には「いわて幸せ大作戦」と銘打ち、同社の観光列車が三陸鉄道に乗り入れるなどのキャンペーンを行う。

住民、自治体、県、国、そしてJR。三陸鉄道ほど愛されたローカル線はないだろう。NHKの朝ドラ「あまちゃん」効果もあり、その人気は全国のすみずみに及ぶ。そういえば、三陸鉄道に導入された真新しい車両は、クウェート政府からの支援によって製造されたものだった。国境を越え、海外でも愛された存在だ。

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