イチローの「28年間」が変えた日本人の野球観 すべての野球ファンの中心にいたスター選手

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2001年、MLBでもイチローは衝撃的なデビューを果たした。新人最多の242安打、首位打者、盗塁王、新人王、MVP。その活躍はアメリカでも驚きだったが、日本のファンは狂喜した。

イチローのメジャーデビューによって、日本の多くの野球ファンは「BSでMLB中継を見る」楽しみを知ることになった。

野茂英雄がMLBのドジャースに移籍した1995年は、BS放送が定着し始めた時期に当たる。野茂の活躍を見たいために、BS放送の加入者が急増したといわれるが、投手である野茂はシーズン中の半年間に30数試合しか出場しない。

これに対し、野手のイチローはシーズン中ほぼ全試合出場する。野球ファンの間に「毎日、イチローの打席を見てから出社する」というスタイルが定着した。アメリカでのデーゲームは、日本では早朝になるが、早起きしてイチローの打席に見入る熱心なファンも増えた。

この時期、夜の日本プロ野球の視聴率は衰退の一途をたどっていたが、それと入れ替わるようにBSでのメジャーリーグ中継を視聴するファンが増えたのだ。

2004年には、アンタッチャブルと言われたジョージ・シスラーの「シーズン257安打」を84年ぶりに破る262安打を記録。日本中のファンが、午前中のMLB中継にくぎ付けになった。

NHKとCSで行われているMLB中継は、ほとんどが現地にアナウンサーや解説者を派遣せず、現地からの映像に東京のスタジオで実況や解説をつける「オフチューブ」だ。

オフチューブでは、池井優慶應義塾大学名誉教授、村上雅則にはじまり、近年の小宮山悟、高橋尚成、イチローの師匠の新井宏昌まで、MLB専門の解説者が登場し好評を博した。

イチローの登場によって、野球ファンの間にNPB中継とは一味違う、新しい視聴スタイルが定着したのだ。

「右投げ左打ちの外野手」を急増させた

イチローがプロデビューした1992年、NPBの一軍の試合に出た左打者(投手を除く)は96人いたが、このうち右投げ左打ちは59人(61.5%)、左投げ左打ちは37人(38.5%)だった。しかし2018年は、左打者135人のうち右投げ左打ちは117人(86.7%)、左投げ左打ちは18人(13.3%)になっている。左投げ左打ちの選手は、年々減少し続け、今や「絶滅危惧種」ともいわれるようになった。

左打者は、一塁への距離が右打ちよりも数十センチ近いうえに、右投手との対戦が多く、有利だとされる。しかし左投げの野手は、外野か一塁しか守ることができない。出場機会を広げるために日本では昭和の時代から「右投げ左打ち」への転向を勧める指導者がいた。

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