ヘルシンキにあって日本にない観光政策の視点 数が目標の観光ブームはいつか破綻する
つまり、問題は政府の目標である年間訪問者数4000万人という数字ではなく、政府がこれだけの目標を掲げておきながら、なぜ「今になってやっと」観光の持続可能性(サスティナビリティー)という概念に目を向けているのだろうか、ということだ。旅行者数が4倍に膨れ上がる前に、それが引き起こす影響を考慮すべきだったのではなかろうか、ということである。
京都のように、観光化が行き過ぎた場所に関しては、その魅力を取り戻すのは手遅れかもしれない。しかし、福岡や仙台といった中小規模の都市であれば、海外の成功例を参考に、観光収入と持続性のバランスをうまく両立できるかもしれない。
スマートツーリズムで1位を獲得
この点、日本はフィンランドのヘルシンキからいくつかのことを学ぶことができる。ヘルシンキは東京の面積の3分の1程度の規模しかないが、つい最近欧州連合(EU)の「スマートツーリズム首都」で1位を獲得している(フランス・リヨンも同時優勝)。同賞は、スマートツーリズムの促進やネットワークの構築、アトラクションの強化、そして成功事例の共有を目的として今年から始まった。その栄えある1回目のトップに選ばれたわけだ。
ヘルシンキは決して主要観光地にはなれないかもしれないし、日本との類似性に欠けるかもしれないが、その持続可能な観光政策に関する先見性には一考の価値がある。
最近、筆者は東京の小池百合子知事も出席したスターアップおよびテクノロジー系のイベント 「Slush Tokyo」に参加し、会場でヘルシンキの代表団たちと都市の先駆的な戦略のあり方について意見交換する機会を持った。日本の数字ベースのマーケティングアプローチに慣れていた私は、ヘルシンキが年間訪問者数の目標値を設定していないことにまず驚かされた。
数値を追う代わりに、都市のブランド構築に力を入れ、ヘルシンキが醸し出すイメージに共鳴する人々が自らの意思でやってくることを期待しているわけだ。今年は、フィンランドと日本の外交関係100周年にあたるが、ヘルシンキは2019年の活動の多くを活用し、そのブランド力をさらに強化するだろう。
サスティナブルな観光を促進する施策の1つとして、ヘルシンキはバーチャルリアリティー(VR)スタジオZOANの専門チームと共同で、「バーチャルヘルシンキ(Virtual Helsinki)」を立ち上げた。利用者が世界のどこにいても、VRを通じてヘルシンキ観光を「体験」できるというものだ。
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