ヘルシンキにあって日本にない観光政策の視点 数が目標の観光ブームはいつか破綻する
利用者はモバイルVR端末を利用して、ユーチューブ上でヘルシンキ観光をできるようになるほか、今春にはインタラクティブ機能を備えたバージョンも、VRコンテンツ専門のアプリストア(Viveport)で公開予定だ。
ZOANとヘルシンキは、年末までに100万人のバーチャル旅行者を誘致する、という野心的な目標を設定している。さらに今年中には、同サービスをさらに進化させ、バーチャル旅行者と実際の住民がリアルタイムで接続できるようにするという。
普段は入れない名所に入ることもできる
当面は、VR体験がリアルな体験を超えることは無理としても、技術進化につれて、状況は変わってくるだろう。では、こうした技術進歩は伝統的な観光を脅かすようになるのだろうか。この疑問に対してヘルシンキとZOANは興味深い回答を寄せてくれた。
彼らによると、VRはスケーリング不可能なものを、スケーリング可能にしてくれる。例えば、現実世界では、世界的に著名な建築家であるアルヴァ・アールトの自宅内部を見て回れるのは、運に恵まれた限られた人々だけだろう。一方、バーチャルヘルシンキでは、こうした制限がなく、より多くの人々が貴重な経験を享受することができる。加えて、デジタル版ヘルシンキでは、障害、健康状態、予算などが原因で、現地へ旅行できない人も市内観光を体験することが可能だ。
現在バーチャルヘルシンキでは、都市を代表する3つの場所を訪問することができる。アルヴァ・アールトの家に加えて、有名なヘルシンキ大聖堂が位置する元老院広場、レクリエーションにぴったりなロンナ島も訪問可能だ。ZOANによると、今後はほかのエリアも順次追加し、将来的にはVR体験に拡張現実(AR)機能も付加したい、という。
ARは現実世界のヘルシンキ市民がデジタル世界の訪問者と交流することを可能にし、VR世界の都市を一歩、現実世界に近づけてくれるだろう。そしてZOANはその先に、数百万人が参加するバーチャルコンサートなど、現実世界では不可能に近い体験の提供も視野に入れている。
バーチャル観光体験以前に、フィンランドの首都は、行き過ぎた観光化を防止するために、アナログな施策も実行していることも忘れてはならない。例えば、ヘルシンキはプロモーション戦略として、年間を通じて楽しめる観光地、というブレない軸を持っている。
「知る人ぞ知る観光地を目指す」という戦略も合わせ、ヘルシンキは、京都の観光インフラが現在直面しているような、観光客の群れに圧倒される事態から逃れられているのだ。言い換えると、ヘルシンキは「本当のファン」になってくれる人に戦略的にターゲットを絞って、マーケティング活動を行っているのである。つまり、観光客の「数」ではなく、「質」を優先しているのである。
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