『新歌舞伎座』建設で浮上する利益背反のおそれ、歌舞伎座上場維持に身を削る松竹の不可解
1月3日から歌舞伎座(東京・中央区)の「さよなら公演」が晴れやかに始まった。期間は1月から2010年4月までの14カ月間。「歌舞伎座は昭和26年の再開以来、今年で58年。その締めくくりにふさわしい舞台にしたい」。松竹の我孫子正専務は意気込みを語る。
その言葉どおり、1月興行は豪華な役者が顔をそろえ、夜の部のチケットは完売したという。従来、一部の大口客に対して行っていた割引を減らすことで、松竹の興行収入は大きく伸びる見通しだ。
松竹が、さよなら公演と劇場の建て替えを発表したのは、08年10月20日のこと。発表内容は至って簡素で、さよなら公演を行うことと、松竹と株式会社歌舞伎座(以下、(株)歌舞伎座)が共同で劇場とオフィス棟を併せ持つ複合建物を建設するという2点だけ。(株)歌舞伎座が劇場を、松竹が100%出資するSPC(特定目的会社)がオフィス棟部分を建設する。その他の詳しいことは1月中旬に発表する予定だ。
銀座に出現する高層オフィスタワー
「10月当時はまだ、中央区や東京都、周辺地権者と協議中だったが、区切りのいい1月からさよなら公演を華々しくやりたかったので、関係者にお願いして一部だけ発表させてもらった」と、関係者は見切り発車であったことを打ち明ける。
関係者らの話をまとめると、近々発表される再開発計画では、現在の劇場敷地と、オフィスビルである歌舞伎座ビルの敷地と、松竹がこの数年で買い増した土地の合計、約6800平方メートルに新歌舞伎座を建設する。現在、隣接地は駐車場などにされており、新劇場は今の劇場よりも大きなものになりそうだ。
歌舞伎座がある銀座地区には、中央区が独自に作った通称・銀座ルールと呼ばれる建築制限基準がある。07年2月、松坂屋銀座店が高さ190メートルの超高層ビル建設計画を断念し、高さ56メートルに計画変更したことは記憶に新しい。
ところが、このルールにはただし書きがある。「昭和通りの東側では、文化等の維持継承に寄与する大規模開発に限り、高さ制限を除外する」というものだ。まさに歌舞伎座再開発のために作られたかのような規定だ。このただし書きのおかげで、敷地の南西側は低層棟だが、北東側には高さ100メートルを超える高層タワーが出現する見込みだ。