電車整備の技を海外に…「地下鉄OB」の職人魂 ジャカルタで尊敬を集める「車両技術の鬼」

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6000系車内で作業中のKCIスタッフ(写真:嶋村禎一)

2014年以降、ジャカルタではJR東日本による技術支援も始まった。しかし、KCIは故障などの発生後に対処する「事後保全」的なメンテナンスを続けてきており、いきなり「予防保全」の検査方法を教育されてもどこまで対応できるのか疑問だと嶋村氏は言う。

単に教育するだけでなく、検査マニュアルがなぜ必要なのかを理解させるとともに、インドネシアの考え方を取り入れたうえで、その実情に合わせた新たなマニュアル作りをしてこそ本当の技術支援であると嶋村氏は提言する。実際に、KCIでは運行本数の拡充に伴う車両走行キロの増加により、整備の現場で新たな課題が発生している。このままだと事故につながる恐れもある。

また、嶋村氏は近年のビジネス的な支援の動きにも警鐘を鳴らす。純正品のスペアパーツを手に入れるルートが構築されたのは評価できるが、少なくともパーツを納入して終わりではなく、その後の指導もしなければならない。難しい部分ではあるが、国際貢献の意識を忘れてしまっては、安い中国製品に取って代わられる日が来るだろう。

人の心をつなぐ技術支援を

21世紀にも通用する車両として約50年前に開発された6000系は、東京メトロで大規模修繕を受けていることもあり、その設計思想のとおり今もなお古さを感じさせない。ただ、最近はチョッパ制御の6000系の故障が頻発しているのが気がかりである。

KCIのスタッフと嶋村氏(中央)(写真:嶋村禎一)

故障原因のほとんどは、GTO制御装置の経年劣化である。すでに日本で生産を中止している製品であり、廃車車両から取り外した予備部品でしのいでいるのが現状だ。ひとまず東京メトロからの車両譲渡は6130編成をもって終了することとなるが、単に車両を海外に譲渡するだけで満足せず、「Heart to heart」、人の心と心に響くような支援が継続されることを切に願う。

嶋村氏にとって、6000系は営団地下鉄への入団当初から世話をしてきたわが子のような存在。「できることは何でもお手伝いしたい」と語る。このような支援こそが、他国には絶対に真似のできない日本のものづくりの神髄ではなかろうか。50年を経ても陳腐化せず、6000系が遠く海を越えて走り続けられる秘訣がここにある。中古車両の輸出に限らず、日本の鉄道の海外戦略においても、大きなヒントになりえるのではないだろうか。

高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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