電車整備の技を海外に…「地下鉄OB」の職人魂 ジャカルタで尊敬を集める「車両技術の鬼」

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筆者と嶋村氏の出会いは2012年の暮れのこと。当時は6000系に不具合が多発しており、新たに日本から到着した車両すら営業運転できていなかった。筆者にも6000系の整備マニュアルが手に入らないかという依頼がKCIの車両担当者から入ることがあったが、そのようなものはなかった。

そんな中、突如KCIの車両担当者から電話があり、「東京メトロの方と話をしてもらいたいから至急来てくれ」と呼び出された。技術的な面に関しては門外漢、まして当時は片言だったインドネシア語で、果たしてそんな大役が務まるのかと、その時はヒヤヒヤした。

その際に判明したのは、空調制御器のマイコン部に取り付けられた電池の漏油による基盤の損傷であった。日本から来たばかりの運用開始前の車両に不具合が多発したのは、高温・多湿の環境下で機器の絶縁が低下しており、そんな中で車両の通電および各試験を行ったためであった。

運用開始後の故障調査にも大きな問題があったという。従来の車両は構内を走行させながら故障状況を確認し、その故障に関する機器の基盤をすべてチェックしていた。だが、この方法は電機子チョッパ制御車の場合、故障をより重症化させる恐れがあった。このようなことが、当時はまだ現場で知られていなかったのだ。

その名を知らぬ技術者はいない

その後の嶋村氏による地道な教育の結果、海を渡って日本からやってきた車両の現地での「立ち上げ」作業はマニュアルが作成され、KCIの作業者だけでできるまでにすっかり独り立ちした。車両故障の調査も簡易試験機を自作し、電子に特化した作業者が作成したマニュアルに従って故障を判断できるレベルにまで向上した。

KCIのカラーリングとなり、試運転を実施する6130編成(筆者撮影)

これらは、嶋村氏の半ば「草の根」的な活動の成果だ。この努力により、初期に譲渡された6000系13編成のうち11編成は、しっかりと整備が行われ、現在も活躍を続けている。

残念ながら機器故障から編成丸ごと廃車される車両も発生してはいるが、6000系を「教科書」として、KCIの電子技術が格段に向上したのは評価されるべきポイントである。

そして、それを支えたのが嶋村氏だった。今や、6000系のメンテナンスを一手に引き受けるKCIデポック電車区の技術系作業者で、嶋村氏の名前を知らない者はいないと言っても過言ではない。

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